遊園地の浮かれた空気と反対に悲痛な顔したナマエが、ジムの壁へ、植え込みの木々に隠れるようにしてもたれかかっておりました。ちらと視線を投げた頬には両方、ひっかいたような3本線がくっきりと見てとれます。「ナマエ。どうしたんですか」がさがさ踏みこんで彼女の前に立つ。あぁ、涙目。


「……恋人が……」
「はい。……一緒に、観覧車に乗ると……言っていた方ですね」
「そうです、その子が……バイだって言ってたのに。なんちゃって、だったみたい、です」
「……あー……」
「キスしようとしたら、ひ、ひっかかれちゃいました」


笑おうとして失敗したようで、変にくしゃっとした顔になり、ゆがめた目からぼろぼろ涙をこぼす。


「なんかぁっ、泣かれちゃって、降りるまでずっと気まずくて、す、好きだったのわたしばっかりだったみたいでっ」
「えぇ」
「恋人って、言った癖にっ。好きって言ってくれた、くせに」


人目を気にして思いきり泣けないのを知っています。なので、壁との間に閉じ込め押しつぶしてやりました。ぐすぐす憐れっぽくすすり泣いてるくせに抱きしめてやっているわたくしに縋りついたりしないあたり、えぇ、かっこいいと思いますよ。意地っ張りなんですから、もう。


「ノボリさんやめて下さいよ、あなたでかいから目立つんですよあっち行って下さいよ」
「心配して来て差し上げたのに酷い言いぐさですね……木でわたくしたちなんか見えませんよ。大丈夫です。目立つコートも置いて来ましたし。おかげで寒いったらないです」
「……コートないとノボリさん完全一般人ですよねー……」


あはは、と、今度はちゃんと笑った気配がしました。少し体を離したら、まだ目は赤くて涙をたたえていれどもきちんと泣きやんだ彼女がいる。「はー、泣いちゃうとか、だっさー」ハンカチはコートと一緒に置いてきてしまったから、親指の腹でそっと目尻に残る滴を拭ってやった。


「あの!ナマエはですね!」
「ちょっと……!声大きいですってば!こんなみっともないとこ、誰か来て見られたらどうするんですか……!」
「す、すみません」


ぐっとナマエの両肩を掴んで視線を合わせる。

「……あの、ですね。ナマエは、ええと、凛々しいし綺麗です。相手の方も分かってないですね、こんなに素敵な子だというのに。わたくしが女だったらあなたのコト、絶対好きになってしまいますのに」
「ふふ。……惚れちゃいます?」
「えぇもちろん。抱かれたい」


くすくす笑ってからまたぽろぽろ泣きだしてしまったナマエの頭を抱き寄せて続けた。「まったく、あなたのことを泣かせてしまうだなんて相当な悪女ですねぇ。良かったんじゃないですか、いっそそんなコワイ方に捕まらなくって」ふへへ、って情けない声で彼女が笑って「ありがとございます、……ぐぅ、うー……の、ノボリさん」とだけ、ちいさな声で聞こえました。いいですよ構いませんよ、好きなだけ泣いて下さいまし。わたくし身内には優しいともっぱらの評判でございます。などとやっていたら人の歩いてくるような音がしてきました。がさがさ葉の擦れる音にナマエの体がビクリと跳ね、わたくしの胸元を掴みシャツをぐしゃぐしゃにしていた手をあわてて頬に当てる。ひっかき傷を誰にも見られたくないからでしょう、赤くなって少し血のにじむその線を手のひらで覆い隠して足音の方を凝視していました。こちらにもぴりぴりした緊張が伝わってきます。


「……あぁなんだ、カミツレ」
「何だとは何よノ、ボ……」
「あっああ、かっカミツレさん!」
「……あんたいい加減にしなさいよね」
「え?」
「人のジムの横で何してんのよ…女の子泣かしてんじゃないわよ」
「え!違、ノボリさんにっ、い、いじめられたとかじゃ…!」
「あー、分かってるから言わなくていいわよ。でも場所は選んでよね」
「は?あぁ、すみません」


またがさがさと枝を払ってカミツレは戻っていきました。物陰でリンチだとか思われてしまったらどうしましょうだなんて考えてたけれど、あぁ勘違いされなくてよかった。


「カミツレさん、超美人だった……」
「おや?次はカミツレを狙います?」
「ぅえっ!?あはっ…!グス、流石に無理ですってばぁ」


やはりナマエは笑っていた方が美人です。うにぃとほっぺたを指で押したら、オクタンみたいな口してまた笑ってくれました。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -