ノボリさんがウサギちゃんみたいな泣きはらした真っ赤な目でおはようを言ったから、あぁまたこの人フラれちゃったんだろうなぁと思った。


「何見てるんです」
「フラレちゃったんですか?」


ぎろりって三白眼で睨まれてしまった。「………わ、わたくし、が、」サブウェイマスターだから。一回ヤッてみたかった、だけなんですって。スンと鼻を鳴らして、彼は言葉を続ける。「わたくしが、わたくし、……い、痛いのだって我慢したのに。最初は優しかったん、ですっ、なのにぃっ」べそべそ涙を頬に垂らしてノボリさんはみっともなく泣いてた。そっと肩を押して椅子へ座るよう促すと彼は存外おとなしく腰を落とす。ティッシュの箱を差し出したら2,3枚一気に引き抜いて鼻をかんだ。


「それで、もう試したので、いらないんですって。女性の方が良いと……気色悪いと、言われました」


それで、捨てられてしまったんですよ!怒りを込めるようにデスク下のゴミ箱へ丸めたティッシュが放りこまれた。行動とは裏腹に彼の顔は情けなく泣きの表情を作っている。「ひっどぉい。見る目ないったら……ノボリさんこんなに可愛いのに!フっちゃうなんてもったいなすぎます」わたしも隣のデスクから椅子を引っ張ってきて彼の傍まで転がし座った。「……本当ですか?」「かわいーかわいー。わたしが男だったら襲うくらい」「そう、ですか?」親指で目元を拭ってあげたらヘラって力なく笑う。うん、可愛いと思う、ノボリさんは。よいしょって彼の太ももを跨いで(スカートのままだけど気にしない、ノボリさんだし)椅子に膝立ちして、彼の頭を抱えて髪をぐしゃぐしゃにしてやったらくぐもった声の笑い泣きが聞こえてきた。あーあ、シャツべしゃべしゃになっちゃうなぁ。今日くらい許してあげるけど。背中にまわされた手がしがみつくようにぎゅうぎゅうしてきてちょっと苦しい。


「よーしよしよし、なんて可愛い子でしょうね!まったくもう、相手の男信じらんない!大馬鹿野郎ですわ。ありえんわー。これだから男って奴は」
「わたくしも男です」
「……ノボリさん以外の男って奴はー!こんな素敵な人に恋人がイナイなんてないわー!ほら元気出して!美人が台無しです!」


彼の膝の上へぺたっと腰を落として顔を覗き込む。赤い顔でまだ目は潤んでたけど、涙は止まったみたいだった。両手でその頬を挟みこんで、至近距離で言ってあげる。


「ノボリさんは、すっごーく!魅力的ですよ!」
「ふふっ、……ありがとうございます」


笑った、いい子!ってこっちまで嬉しくなってたらちょうど入って来たクダリさんにすごくギョッとしたみたいな顔をされた。「ごほ……ノボリ?あー、多少控えてよね、そういうことは」それだけ言ってまたそそくさと出ていくクダリさん。


「……悪いのに引っ掛かるから、控えなさいってことですかね。ノボリさん、いつカミングアウトしたんですか?」
「ま、まさか!言っておりませんよ!」
「え……じゃあ、やばくないですか、あれバレてるっぽくないですか…?」
「ば、ばれてるんです、かね……!?」


青ざめてそんな、とか見られたのですか?とか嫌われてしまうでしょか、縁切り……、とかぶつぶつ言ってる彼を見て、身内バレとは気の毒にねぇとか思ったけど、所詮他人事なので放っておくことにする。



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