朝のいちばん
結論から言うと、何事も起こらず朝を迎えました。朝の柔らかな日光が薄手のカーテンを通して部屋をぼんやり明るく照らしている。小鳥のさえずる声がする。……い、いや期待してたわけじゃないけど!別に、ちょっとくらいアレな空気になってもいいんじゃない?って思っただけで、そんな、ちょっといつもよりも可愛いパジャマを着たりなんてしてないけど!
まぁそりゃそうだ。家主に手を出して夜中に家を叩きだされたんじゃ困っちゃうもんね。彼の言う”帰り方が分からない”というのが本当だったとしての話。
「なんか、いい匂い、する……」
寝ぼけ眼をこすりつつ台所までぺたぺた歩いてったら、長身の男の人が流れるような手さばきで朝食を作っているところでした。私に気付いた彼がこちらへ振り向くのと、彼が握るフライパンへぽふっと美しくオムレツが宙返りしておさまったのがほぼ同時。
「なまえさま!おはようございます!」
「おはよ、…ふぁ…ござい、ます」
「申し訳ございません、勝手にキッチンお借り致しました」
「いえいえー」
かちゃかちゃとお皿を出してきて彼がテーブルへ朝ごはんを並べる。
「…え?なんで私の分だけなの?」
「わたくしは、その…いいです」
「なんで?あなた朝は食べない人ですか?」
「いえ、まぁあの」
「一緒に食べましょうよ。寂しいじゃないですか」
「…ありがとうございます」
かたん、とイスを引いて私の前に座った彼は、食パンをそのまま齧り出した。せめて焼こうよ。変なところで気を使う人である。彼の作ってくれたオムレツ(私の食べかけである)を一口、もごもごと動かしている口にえいっと突っ込んでやった。
「むぐっ」
「美味しいでしょ?」
「………」
「あなた料理上手ですね!あさごはん作ってくれて、どうもありがとう」
そこでやっと彼は安心したように少しだけ笑った。