はじめまして!






やたら綺麗な手つきでミートソースパスタ(レトルトパウチ)を巻き取って口に運ぶその黒いコートの人をぼんやり眺めながら自分ももそもそとサラダを咀嚼する。テレビからは今日の事件を読みあげる淡々としたニュースキャスターの声が垂れ流されている。室内なんだからコートくらい脱げばいいのに、と思ったがその下に着ているのは白いワイシャツだから、ひょっとしてソースがはねるのを危惧してそんなかたっくるしい格好で食事しているのだろうかこの人は。




「ごちそう、さまでした…」
「おそまつさまでした」


手を合わせてぺこりとごちそうさまを言ったノボリさん(電波)を、さてこのあとどうしようか。警察に連れていくにしたってもうちょっと外出するには遅い時間だ。かといってじゃあ今晩泊めてやるかといったらそれはそれで、うん、なんというか、こんなイケメンがわたしごときに間違いなんか起こすはずもないんだけどさ!ていうか別にこんくらいイケメンとだったらちょっとくらい間違いも起きちゃったっていいかなとか思っちゃったけどさ!もじもじそわそわと落ち着かない様子で手を何度も組み直している彼をじっと見る。…うん、イケメン。ちょっぴり三白眼だけど。友達が泊まりに来た時の為に、なんて言って購入したはいいが今のところ全く出番のない客用布団くらい貸してやろう。初めての相手がこれほどのイケメンであれば布団も喜ぶに違いない。


「……あ、あの!」
「おっふ!?あ、ハイどうしたんですか?」
「あの……」
「えーと、帰り道が分からないなら一晩くらい泊まっていったって構いません、よ?」
「ほ、本当でございますか!」
「っうお!?」


がばっ!っと勢いよく彼が立ちあがったので危うく食後のお茶をひっくり返すところだった。ていうかちょっとこぼれた。「よ、よろしくお願いいたします…!」「はいはーい」テーブルに額がぶつかるほど深々と頭を下げて恐縮する彼に、むしろこちらが恐縮してしまいそうである。狭いところでごめんなさい。さて、まずはこの若干薄汚れた彼をお風呂へ入れてやって着替えの服を渡してやらねばなるまい。大きめのスウェットとかならまぁ…着られるだろう。多分。


「えぇと、ところで大変失礼な質問なのですが、…………あなたのお名前はなんとおっしゃるの、ですか?」
「あれ、名乗ってませんでしたっけ。なまえです」
「…………ッなまえさま!あぁ!なまえさま!改めまして、わたくしノボリと申します!」
「はぁ」


あくまで自分をノボリさんで通すつもりらしい。なんだそのテンション。




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