迷子の迷子の






仕事が定時ちょい過ぎくらいに終わって、今日もつかれたなーって思いながらコンビニでゼロカロリーのカップゼリーひとつ買って帰宅した。頑張った自分へのご褒美!………ってずっと前に読んだファッション誌のどっかに書いてあったなぁ。ご褒美云々はどうでもよくて、ほんとはただゼリー食べたかっただけです。夕ご飯のあとに食べるんだ。へっへ。ひとり暮らし向けのマンションの、階段を上っていちばん端っこのわたしの家へ帰、…………なんか黒い塊が転がってる。どうしよう。恐る恐る近づいてみたら、その塊は体育座りでうずくまってるあのレイヤーさんだった。…服が昨日のままだ。


「も、もしもしー?大丈夫ですかー…?」


声をかけたらぴくりと肩を震わせて、帽子のしたからぼんやりした目が見つめてきた。と、わたしの顔を認識した瞬間クワッと険しい顔になり、…そのままぶわっと涙をあふれさせべそべそと泣きだした。ええええどうしよう。


「えっえっ!?何で泣くんですか!?」
「すっすっすみませ…!」
「やだちょ、わたしが泣かせたみたいじゃないですかぁぁ…!」
「ここは、ここっ、ひっく、ここはどこでございますか……っ!」

どこって、わたしの家のドアの前です。とりあえずめそめそと顔を覆って泣き続けるその人を家の中にひきずりこんだ。ご近所さんの目ってものがありますもの。






「…それで、どうしたんですかあなたは」


わたしが出した紅茶をお上品に飲みながら(目と鼻の頭は子供っぽく赤いけど)テーブルをはさんでわたしの目の前に座るノボリさん(迷子?)へ話しかける。スンと鼻を軽く鳴らしたあと、彼はぽつりぽつりとそれはそれは小さな声で語り出した。曰く、帰れなくなってしまったのだと。迷子確定か。

「帰れない、って……家がわからなくなっちゃったってことですか?」
「自分がどこにいるかわからなくなってしまったのです」
「(電波か)」
「どこもかしこも、わたくしの知っている所ではないんです、わたくし昨日までは普通に、仕事をしていましたのに……」


さめざめ泣く彼を見て、ちょっぴり後悔した。うわぁ、いらんものを拾ったかもしれない。電波だ電波。どうしよう。ん、どうしようっていうか、警察に連れてけばいいんじゃん。迷子だし。


「全部が全部わたくしの知らない街で、帰り道もわからなくて……しかし昨日、あなたさまはわたくしを知っていらしたようでしたので、グス、ご迷惑かとも思いましたが、た、頼れる方が他におりませ、ひぐ」


え、いやわたしあなたのこと知らないんですけど。じろじろ見つめてたら、ぐきゅるるるーってどこかからまぬけな音が聞こえてきた。途端におなかをバッと押さえて一気に耳まで赤くなった彼に、そうだ、わたしも今さらながらまだ夕食を取っていない事を思い出した。ていうかあれかな、ひょっとしてこの人昨日から何も食べてないとか……ありうるかも。だって服も昨日と同じなんだもん。迷子かホームレスか、はたまた他の何かなのか。真偽は定かじゃないけども、


「とりあえず、ごはん、食べていきます?」


おなかを押さえたまま未だ赤い顔でぱっとノボリさん(迷子確定)が顔を上げた。そ、そんな期待した顔で見つめられても、レトルトソースのパスタくらいしか出せないからね……?




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