すっごい不審者








ひらりひらりと舞って遊んでるみたいに、その黒く長いコートをひらめかせて姿を見せたその人は、どうしてかな、わたしの大好きな人に酷似している様に思えました。




いやあんた誰。






こんばんはまたはこんにちはもしくはおはようございます。おやすみなさいは不要だよね、ポケモントレーナーのなまえです。嘘です。しごくまともな一般ピープル代表、ちょっぴりゲームが好きですけどまぁ概ね普通の社会人やってます、なまえです。いつも通り寝る前の厳選作業とBP稼ぎをこなし、さて20連勝したぞーノーマルノボリさんぶちのめすぞーってやってたところでいきなりDSがフリーズしました。知ってる?DSってフリーズするんだよ!BGMも止まってね、み゛ーーーーーーみたいな音するから。すっごい悲しくなるから。疑うんならちょっと机から落としてみるといいよ、わたしは責任取らないけどね!うっそぉぉせっかく次で10BPだったのに!って枕を抱えて嘆いてたけど、まぁフリーズしちゃったものは仕方ないので、電源をぶちっと落としてもう寝ることにしました。ノーマルだし悔しくないもんねーってひとりごとみたいに強がりな愚痴をこぼしながらDSをぽいっとベッドの上に置いて、ちょっとお茶を飲もうと思って台所へ行って、それでまた寝室へ戻って来てみたら、なんか真っ黒コートの麗人が焦ったように部屋の中をくるくると歩き回っていたのでした。しかも土足で。そして話は冒頭へ戻る。


「(コスプレ不法侵入とか聞いたこと無いぞ)……何か御用ですか、ええと……ノボリさん?」


ちょっぴり嫌味を込めてノボリさん、と呼んでみたんだけど、わたしが部屋へ戻ってきてから凍りついたようにその動きを止めていたノボリさん(不審者)は、驚いたようにバッとわたしの顔を見た。それから目をしろくろさせて、消え入るような困った声音でしどろもどろに「………も、もうしわけござ、いません……」って言った。いや申し訳ございませんじゃなくて。とりあえず靴脱げよ。


「すみませんあの、わたくしその、あなたのお部屋へお邪魔する気はなかったのです、けれど、」
「ああー、お隣さんちに侵入しようとして部屋間違えちゃったとかそういう……えーと、すいませんまず靴脱いでもらっていいですか。一応室内なんで」
「あ、も、申し訳ございません」
「あーその、それで、あっ別に警察よぼうとか思ってな、」
「警察!?あっあ、違います、わたくしなにか手違いであなたのお宅へお邪魔してしまったようですがその、怪しいものではございません、どうか警察は…!」
「…い、ですから安心してくださいって言おうとしたんですけど」
「す、すみません……」


小さく縮こまって座り込んだ(脱いだ真っ黒シックな革靴は床に置かないで膝へ乗せてる)ノボリさん(仮)は、ちょっと涙目だった。どうしよう不法侵入者泣かせちゃった。


「……えと、あのですね、わたしも事を荒立てるつもりはないんです、よ?あのー、間違いだったっておっしゃるなら別に、あなた悪い人じゃなさそうだし(レイヤーさんっぽいし、ってことはポケモン仲間だし、それにイケメンだし)」


いよいよ小さくなって泣きそうになってるノボリさん(レイヤー)を見ながら、別に怒っちゃいないのになぁって思った。むしろこんなカッコいいのにオタクってギャップ萌えだよねとか思ってた。ぐす、って鼻をすする音が聞こえて、やばい本格的に泣きだしたのかと顔を覗き込んだら、急にノボリさん(不法侵入者)は立ちあがる。


「え、なに」
「お、お邪魔いたしました!」
「あ、はい、?」
「お詫びは後日必ず致しますので!」
「はぁ」
「失礼致しますッ!」


がちょんと窓の鍵を開けて、ノボリさん(ゲオタ)は夜の暗闇へ飛び出して行った。え、大丈夫なのここ二階だけど。玄関使えばいいのに。べちゃりと地面におっこちた音、それからかぽかぽと、多分靴を履く音が聞こえたと思ったら、だだだと走り去る音がして、すぐにそれも消えてしまった。あー、いっちゃった。あれ、ていうかお隣さんに用があったんじゃないの。コスプレまでしてきたってのに帰っちゃうのか。まぁ、わたしには関係ないけど。
ノボリさん(どっか行った)が飛び出して行った窓の鍵を締めなおして、あれ、そういえば鍵かけてたはずなのによくあの人部屋に入ってこれたなぁって思った。ふと時計を見たらもう日付も変わる頃で、あぁ、最後の最後で変な日だったなぁ。ねむい。




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