聞きたいことは








「それで何だっけ、私がヒッチハイクした時の話でしたよねアハハ!あの時はほんと大変でしたよ皆なかなか車停めてくれないしヤラシーことしようとする人に引っかからないように気をつけなきゃならないし荷物重いし」
「えっ、え、なまえさまがビッチなのですかとお聞きしたつもりだったのですが、その、ヒッチハイクではなくて」
「チッわかってますよ冗談の通じない人ですねあなた」
「す、すみません…」


シェイクをストローでズコズコ啜りながらありもしないヒッチハイクの思い出話を語りだそうとしたのに冗談の通じない彼によってばっちり軌道修正されてしまった。チョコレートシェイクなんてお子様じみたもの飲んでるから大人のジョークってもんが通じないんだきっと。そわそわと落ち着かない様子で、でも質問の答えをはぐらかすことは絶対に許さないみたいな雰囲気で、目の前に座っている彼はストローを唇でつついていた。萌えキャラかよ。


「なまえさま、は……」


あの、あのぅ。男のくせにずいぶんと女々しく口ごもって次の言葉をなかなか吐かない。さっきから否定してるのに疑り深いなこの人は。ここまで怪しまれているってことはきっと「はいビッチです」以外の言葉を聞いても簡単に信用しないパターンだぞ。めんどくさ!
でもさんざ迷いながら彼が口にしたのはちょっと違う言葉だった。


「なまえさまは!……こ、恋人がおありなので、しょうか?」


内心盛大にずっこけた。ていうか、びっくりしたというか、えぇぇー。なにそれどういうことなの。「君って恋人いるの?」だなんてセリフの後には「僕と付き合わないかい?」みたいな言葉がテンプレだよねそうだよね!でもこの場にあまりにも似つかわしくないぞ、あと告白にはほど遠い表情してるぞこの人。なんたって目の周りが青くなってるもん。赤面どころか素面どころか、青ざめて愛の告白なんか聞いたこともない。何が言いたいんだこの人。あ、もしかして恋人いたら自分の存在が迷惑になるとかそういうこと考えてる?


「……さっきも言いましたけどぉー……、あ、あなたは聞こえてなかったかもしれませんけど。恋人いません。」
「あ、そ、そうですか」
「だいたい彼氏いたらあなたのこと泊めてあげられないでしょ」
「そうですよね、ご迷惑になってるかと……思って」


目の前のくたびれリーマンみたいなその人はへにゃっと笑ってチョコレートシェイクのストローを咥えた。くそぅ、やっぱりそっちかよ!別に期待してなかったけどほんとにこの人そういうことしか考えてないんだなもう!


「いや全然迷惑とか思ってないですから……目の保養ですから。ほらフローズンヨーグルト味ひとくちどうですか」
「え!……いただきます」


差し出したプラコップに顔を寄せて、ストローをぱくりってしたからちょっとびっくりした。あと軽くときめいた。やっぱイケメンなんですけどこの人!少しだけ頭の中かわいそうだけどそれを補ってあまりあるイケメン!ごくりと喉仏を上下させてシェイクを飲み込んだ後、ちゅっと小さな音を立てて顔を離して、嬉しそうに「間接キ……ゴホンなんでもございません」ばっちり聞こえてるから!咳払いわざとらしいから!中学生か!


「ところで、質問に答えていただいてもよろしいでしょうか」
「ん?なんですか?」
「なまえさまは、びっち、なの……で、」
「アン?」
「ひっなんでもございません。ええと、ええと……きょ、今日は何日でございますかね?」
「は。……17日?」
「……なるほど……」




なにそのはぐらかし方。小学生か。






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