ノボリの家は、ノボリがいなくなったら何だかとても広くなった。ノボリは背が高いから、きっと家にいるとそれだけで部屋が狭くなったように感じてしまうんだと思う。そういうことなんだと思う。多分。すかすかになってしまったリビングの、ひとり暮らしには少し大きすぎるだろうソファで寝そべってみた。ふかふかした。そういえばノボリはひとり暮らしだから多分独身なんだと思うんだけど、実際どうなんだろう、恋人とかはいるのかしら。きっといないな。だって10歳くらいの子供を誘拐してしまうような男に彼女なんて出来るかって言ったら、そりゃ多分できないでしょ。ふふん、まったくノボリはアブノーマルなんだから。顔がよくっても中身が怪しいんじゃよくないわ。ぱたぱたと脚を空中に泳がせたら、ぺろりとノボリのロンTの裾が捲れて脚が丸出しになった。ノボリの古いスウェットのズボンの裾を切り落として作ってくれたわたしの新しいズボンは、やっぱりこれもぶかぶかで、おまけにノボリが適当にじょきじょきと脚の余った部分を切り落としてしまったものだから、ほつれて糸がでろでろと出てしまっている。シャツはみっともないって言った癖にね、これはみっともなくないのかしら。パジャマと部屋着の区別をつけろってこと?よくわかんないけど。
ぴーぴーとどこかから電子音のメロディーが流れてきたから、音を頼りにノボリの家の廊下をぺたくた歩いた。脚の指が冷たくなった。電子音はどうやら洗面所から響いてるみたいで、ドアをがちゃんと開けたら洗濯機がぴこぴこ楽しそうに歌っていた。いや実際洗濯機が楽しいかどうかは私のシュカンにもとづいて判断されたものですので、つまり洗濯機が楽しいかどうかなんて誰も知らないんですけどね。なんちゃって、夕べノボリが見てたテレビ番組のキャスターの真似してみた。確かなんか動物の知能についてやってた。知能ってなにってノボリに聞いたら脳みその事ですよって答えてもらったけど、多分ちょっと違うと思う。メロディーを朗々と歌い上げてから途端に一切の動作を止めた洗濯機の前に立って、さてどうしようかと想いを巡らせる。あ、そうだ、これ乾かしておいてあげたらノボリ喜ぶかもしれない。感激してずっと家に居て下さいまし!って言ってくれるかも。いかにもそれは素敵な思いつきに思えたので、さっそくリビングまで行って今朝ノボリの双子が使ってたイスをずりずり引っ張ってくる。私の小ささじゃ洗濯層の奥にぺしょっと入ってる洗濯物にまで手が届かないものね。脱水はされてるものの水を吸って重たくなっている衣類を頑張って持ち上げて、洗濯機の横に乱雑に置かれてたハンガーにかけて、また引っ張り出して、ってやって、やっと最後の一枚をハンガーにかけ終わった。ノボリの家のベランダだったらお外に出るって事にはならないだろうと思って、ハンガーにかかった洗濯物を腕に抱えたままにじり足でベランダへ出る。からりとしていていい天気だ。物干し竿にハンガーをひっかけようとしたら、残念ながら手が届かなかった。ので、またノボリの双子が朝に使ってたイスに登場してもらった。よかったね、今日の私のMVP賞だよ。ぱたぱた風になびく洗濯物をみて満足感に浸って、ふと時計をみたらもうお昼だった。キッチンの作業台の上からノボリが作ってってくれたサンドイッチをお皿ごと持ってきて、お行儀が悪いけどソファにすわって食べた。サンドイッチを口に運んだとき、さっき洗濯物を触ったてのひらからふわんとノボリの匂いがして、あ、これ洗剤の匂いだったんだって思った。サンドイッチは美味しかった。ノボリいつ帰ってくるのかな。テレビは話し相手になってくれないからちょっと退屈だ。



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