いい子にしていて下さいね、その服で外出ちゃいけませんよ、家の中のものは適当に使っていただいて構いません、お昼ご飯はサンドイッチを用意してありますが万一キッチンで火を使いたい時は十分注意するように、あとそれから、とここまでナマエに言ったところでクダリに急かされて家を追い出されてしまった。ばたん、ガチャリとクダリがドアに鍵をかける。わたくしまだナマエにきちんといってきますの挨拶、しておりませんでしたのに。走るクダリの後を追い階段をばたばたと降りて、フラットの前のバス停にちょうど着たバスへ滑り込んだ。なんだ、まだこんな時間じゃないですか。もう一本あとのでもよかったのに。

「ノボリ、ちょっと…あの子、なんなのさ」
「あーそれは、ええ、ですから後で話しますって言ってるでしょう」
「さっきの後は今でしょ、説明して」
「ここでですか…」
「ねぇまさか本当にゆうか、」

じろりと優先席に座っているマダムに睨まれて、クダリはあわてて口をつぐんだ。わざとらしい笑みを顔に張り付けると「ゆうか、しょうけん、…の内に入るんだってさ、図書カードって!」ニコリ、笑いながらものすごくどうでもよさそうな話題にシフトチェンジした。

「そうなのですか」
「そうなんだよー」
「………あとできちんとおはなししますからそんなに睨まないで下さいまし…」
「…絶対だからね」

ハーァと思いっきり不機嫌そうなため息をついてクダリは窓ガラスへその視線を移動させた。それに習って窓の外を眺めていたら、ゆるゆると通り過ぎていく交差点で、むつまじく手をつないで信号待ちしている親子を見つけてしまった。そしたらなんだか、あぁあの子供は寂しい思いをしていやしないだろうかと、さっき家を出てきたばかりだというのに気にかかってしかたない。

「ノボリ、まさかと思うけど君……思いっきり年下の女の子が好きとか、そういう趣味は、ないよね?」
「ないですよ」
「そう、よかった。信じてるからね」

信じてるという割にはガラスの反射越しにクダリが思いっきりこちらの様子をガン見していたが、バスとすれ違う子供の数を心の中で一心不乱に数えることでスルーした。あ、あの子の着ている服、なかなか可愛らしいですね。ナマエに買っていく服の参考にしましょう。

「ねぇノボリ、信じていいんだよね?」
「え?何がですか?」
「いや……何でもないや、信じてるよ…」




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