目を開いたら見覚えのない天井がみえた。寝起きの頭で考えること数秒くらい。あぁそういえば私は誘拐されてきたんだった。ふかふかの毛布を引き寄せてもう一度目をつぶる。甘くて清潔ないい匂いがした。ノボリの匂いだ。素足に触れているタオルケットの感触も、あたたかくてさらさらで気持ちいい。しかし私は差し迫った目下の問題、そう、尿意と空腹という問題を解決するために、名残惜しいけれどふかふかおふとんとはお別れしなくてはならないのである。ぴょんと勢いをつけてベッドから降りたら、スプリングか微かにきしんと鳴いた。カーテン全開の窓からはおひさまの光が燦々と差しこんでくる。いい日だ。わたしには少しだけ高い位置にあるドアノブをまわそうと腕を上げたら、わたしがそこへ触れるより先にかちゃりと控えめな音を立てて開いた。

「おやおはようございます。お目覚めでしたか」
「おはよー誘拐犯、おなかすいた」
「顔を洗って来るのが先ですよ。洗面所は…」
「わかってる、昨日覚えたもん」
「これは失礼しました、ナマエは一晩でわたくしの名前をお忘れになったようなのでひょっとしたら洗面所の場所も忘れてしまったかと思いまして」
「忘れてないもん、ノボリでしょ!」

いーってしてからノボリの脇をすり抜けて顔を洗いに行こうと思ったら、上からノボリに何か白いのを渡された。

「なに?これ」
「とりあえずの服です。顔を洗って、ついでにこれに着替えてらっしゃい。その格好で一日中過ごすのでははしたないでしょう」
「え、いいよこのシャツで大丈夫だから…外は出ないし」
「いいからこれ着なさいと言っているのですよ、これ以上ぐだぐだ抜かしたら無理矢理着せますからね」
「へんたーい!」

ノボリからその白い洋服をもぎとるように受け取って洗面所へ駆け込んだ。ばたんと扉を閉めて、私が寝てた客間と同様、やっぱり私には少し高い位置にある鏡を覗き込む。今まで見た中で一番血色のいいわたしが映っていた。いや、どうかな、わかんない。だって今まではこんな明るい所で鏡なんて見たこと無かったし、もしかしたら前からこうだったのかな。とりあえずまず顔を洗って、そのあとノボリに渡された洋服をかぶった。白いロンTだった。大きすぎるせいでだぶっとしてて、わたしでは肩は見えるわ膝まで裾で隠れるわ、これだったらパジャマ代わりにしてたさっきのシャツでも変わらなかったと思う。ふかふかして保温性ばつぐんのノボリのロンTは、やっぱり甘くて清潔なノボリの匂いがした。ちょっと嬉しかった。



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