家のクロゼットの向こうには不思議の国が広がっていました。だなんてね、そんな本があったよね。残念ながら私が迷い込んだのはワンダーランドじゃなく現実で、私は選ばれし人とかそういうカッコイイ感じの人間じゃなくただの一般人で、しかもここには野生の凶暴な動物(口から火を吐いたりふわふわ浮かんでいたりする奴とも遭遇したけどあれは本当にただの動物なのか)がいっぱいいるんだけどね、そしていつの間にか私が出てきたクロゼットの通り道は消えてたんだけどね。はい詰んだね。

クロゼットの向こう側に変な景色が見えた時点で引き返せばよかったのに私ったら馬鹿だから好奇心に駆られてホイホイ進んじゃったよ!もう!どこの会社だよわたしんち建てたの!忍者もびっくりな抜け穴なんて作らないでよ!可哀想な人が迷い込んじゃったらどうするんだ!そう、今の私みたいな!

嘆き悲しんでも仕方ないので、膝くらいまで砂に埋もれた足を必死で持ち上げて砂漠を歩く。まってこれ下手したら死ぬよね。こんな砂漠のド真ん中でこんな普段着で、死なないわけないよね。い、いやぁぁぁ死にたくない!まだ読み途中の漫画が部屋に積んであるんだ、死んでたまるか…!じりじりと照りつける太陽と容赦ない砂嵐、そして時折姿を見せる謎の火吹き動物。だんだんと目の前がまっくらに……まっくらに……


んんん?


失神して目の前がまっ黒けになってしまったのかと思ったがどうも違う。このクソ熱い砂漠の砂の上で、黒いコートの御仁が私をた、たすけてくださったー!めでてぇー!酒持ってこい!さけだ、さ、け?あらら?視界がぐるぐる、あ、今度こそ失神ですね。オッケー分かってる。ぐわんと大きく揺れた視界に脳みそまで揺さぶられて、私は今度こそ意識を手放した。誰かいると安心しちゃうって本当なんだね。






靴ですか。履いてません。だって自室のクロゼットからきたんですよ私。おかねですか。持ってません。だって自分の部屋の中で財布なんか持ち歩かねぇでしょちくしょぉぉぉ!って叫びたいのを我慢して、目の前の黒コートの御仁の質問に困ったように笑って返す。カード?カードも持ってないですよ、財布持ってないんだから当たり前でしょ?手持ち?だからお金ないんだってば!


黒コートの御仁が丁寧な質問を下さるのに対して、それとそっくりな顔した白いコートのガキみたいなやつは「カードは?」「手持ちは?」って金ばっかりかよ心配は。ないです。はい。なんもないです。困りましたねぇって頬に手を当ててる黒コートさんまじ優しいです。どうしよう惚れちゃう。ちょっと嘘だけど。


「あー、じゃあノボリがこの子を買ってあげればいい」
「は?」
「一回千円で、どう?」
「安いわ!」


いや安いとか高いとかそういう問題でもないけど!何この人、無一文と見るやこの態度!いくらなんでも酷くない?!


「回数制じゃなく時間制にしてくださいまし」
「あーじゃあ1時間千円で」
「そうですね。ゴムありで」


あ、こいつら最低ですね。本人の許可なしに話進めてますね。でも私ここで逃げたとしても無一文で多分前進できないですね。つまりここでこいつらの要求をのむしかない、のか、うわぁ酷い。あはは回数制じゃ駄目ってあれかなー?お兄さん早漏かなー?うふ、うふふ、うっ……なんでこんなことに……!ちょっと自分の人生の不運さを嘆きたくなった所で黒いコートの人に肩をぽんと叩かれた。


「では帰りにコンビニででもゴム手袋、買っておきますので…夜の間に台所回りの片付けと洗濯、お願いしますね」


えっそういうあれなの、あはんうふんな方向じゃないんだ。あ、そっか。そっかそっか……紛らわしい言い方よしてよ覚悟決めかけちゃったじゃないの!



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