朝早くから夕方のかなり遅くまで、その子供は公園の、ある時は砂場で一心不乱に山を素手で建設し、ある時は芝生に座り込んで草をつまんではむしりつまんではむしりし、またある時はただベンチでぼうっと空を眺め、そうやって一日を過ごしているのだった。彼女くらいの年頃だったらそう、友達と遊んでいたりするのではないか。自分も同世代の子供たちと比べたらアクティブなほうではなかったけれど、それでもあの歳くらいの時は毎日泥だらけで遊んでいた。今日もその子供は公園に設置された三つ連なっているブランコの左端に座ってきいきいとそれを揺らしている。

「こんにちは、おひとりですか」

彼女が振り返った拍子に鎖がきぃと小さく耳障りな音を立てる。くりくりとした目をいぶかしげに細め、子供特有の高い声でその少女は「そうだけど、なにか?」と、つんとしたお澄まし顔を作って答えた。長い髪の毛がブランコの軋む音に合わせてその背中で揺れている。ははぁまったく、つくづく女性と言うのは生まれた時から女として生きているのだと思う。しかし小さい子供が気取って澄ました表情を繕っているのは、それはほほえましいものだ。

「いいえ別に。ただ昼食用にと買ったサンドイッチがちょっと多くてですね、どなたか一緒に食べて下さる素敵なレディはいないものかと探していたのですよ」
「そう」
「あなた、おひとりでしたら一緒にサンドイッチ、いかがですか」
「おんなのこを食事に誘うにしてはショボいと思う、サンドイッチなんて」
「えぇわたくしもそう思います、ではそのショボいサンドイッチの埋め合わせに、今晩ディナーもごちそうしましょう。いかがですか」
「しょうがないな、あなたがそんなに必死なら一緒にごはんくらい食べてあげてもいい」
「優しいのですね、ありがとうございます。お手をどうぞ」
「なに?どこに行くの?」
「わたくしの家です、ここでは少し寒いでしょう?」

ふっくらからはほど遠い、ひょろりとしたその腕を取って歩き出した。長めの袖からのぞいた手首には、変色して黒っぽくなっている痣が見えている。「あ、あるくの、速いよ!」裾のすりきれた黒いスカートから伸びる、腕と同じに細っこい脚には、やっぱり赤や青や紫の痣が点々と散っていた。

「あぁわたくしとしたことが女性の歩幅に合わせるのを忘れるなんて、このお詫びはどうしたらいいでしょう…そうだ、服でもプレゼントしましょうか。明日買って参りますのでぜひわたくしの家に一泊なさってください。いかがでしょう?一泊と言わず二泊でも三泊でもして頂いていいんですけれど」
「なぁに、あなた誘拐魔なの?」
「えぇ、実はそうなんですよね」
「わたしを誘拐しちゃうの?」
「そうなりますね」
「そう、それって」

とっても素敵、と嬉しそうに呟いたその子供の顔が、少しだけ悲しそうにゆがんだのを見過ごしたわけではなかった。けれどもこの小さな子へ、自分はなんと言葉をかけるのが正解かなんてわからなかったので、口を結んだまま彼女と繋いだ手に少しだけ力を込めた。風の強い、ある春の日のことである。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -