「ねぇナマエ!今日遊び行ってもいいかしら?」
「ん?うん、いいよー、トウコなら大歓迎!トウコなら大丈夫!」

帰る道すがら、やれ何組の誰が誰を好きだの誰がモテるだの、そういった他愛もない話をしつつスクールバッグをぱかぱかいわせながらふたりで私が住んでいる家へ歩いた。誘拐(未だ誘拐と呼ぶべきなのかはわたしにはもはや分からない)されている身だけれどもこうやって以前どおり学校へ行けているし(住むところが変わっているのになんの手続きもしていない、これもおかしな話だとは思うけれど学年主任のシャガ先生が大丈夫だって言ってるからわたしはその言葉を信じている)、外出だって自由にさせてもらえている。当たり前みたいに帰ったらおかえりと言われるし、夕ご飯の支度だってしてあるし、ノボリの304号室の客間は、すっかり私の部屋になってしまっている。

「ただいま!」
「おじゃましまーす」
「まだノボリもクダリもお仕事だから帰ってこないし、何してあそぶ?」
「この間のDVDの続きがみたいわ!」
「どれだっけ?μUの逆襲だっけ?」
「そう!」

かしゃんとデッキにディスクをセットして、ソファに戻る前にキッチンから飲み物とちょっとだけおやつを用意してからトウコのよこへ座った。画面の中ではオリジナルにちょっとだけまだらの浮かんだようなモンスターたちが、自分とほとんどそっくりなモンスターとべしばし争っている。ふと着ていた服の袖をまくって腕を見てみたら、そういえば私の体中にあった痣はほとんどひとつ残らずなくなっていたことに気付いた。ノボリとクダリのとこにきてから保健室のお世話になることもなくなったね、そういえば。ちょっとだけまだ痕の残っている腕の内側の切り傷をついとなぞってから、ポップコーンひとつふたつ口へ放りこむ。画面の中では黄色くて耳の長いまるまっこいモンスターが、これまた黄色くて耳の長くて丸まっこいモンスターに張り手をくらわしていた。自分で自分を傷つけるのは自傷行為っていうんだよ、痛いよね、やらない方がいいよって前にクダリが言ってた言葉がなんでか思いだされた。ずび、って音で横を向いたら、トウコが号泣していた。手に握りしめたハンカチはぐしょぐしょになっている。ボックスティッシュを出してあげよう。



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