「ノボリ!大変!大変だよ!」

バサァ!と掛け布団がひっぺがされると同時に、ひやりとした朝の空気が敷布団と接している右半身下部を除いて全身を襲った。さ、さむい。思わず胎児のように腕を胸に引き寄せて丸まったら、羽毛布団を部屋の隅に投げ捨てたナマエが間髪入れずにベッドへ飛び乗りゆさゆさがくがくと肩を揺さぶってくる。う、うえぇぇ。朝からハイパーブラボーな目覚ましをありがとうございます。目は覚めましたが頭がくらくら致します。

「ノボリ!大変だよ!あのね、駅前のあのスーパー、今日は卵が大特価だよ!」
「う、うぅぅ……何ですって?卵がなんです?」
「卵が安いよ!早く行くべきだと思うよ!」
「40秒で支度致します、少々待っていなさい!!」
「ノボリ!卵のついでにポップコーンボールも買って!」
「ではナマエはわたくしがいつもより少し高いビールを買ってもそれをとがめないように!」
「了解した!」
「よろしい、商談成立です!」

ジーンズにラフなTシャツ、その上からジップアップの黒いパーカという非常に休日代表な格好をしてスニーカーをつっかけた。はやくはやくと急かすナマエもスニーカーにミニスカート、それからTシャツとパーカという、もう少しオシャレをさせた方がいいのかもしれないと思うような格好をしている。まぁ、地元ですし子供ですし、別にいいか。急いでも逃げませんよと声をかけながら家の鍵を閉めていたわたくしに向かってナマエは「特売は逃げるの!」と怒鳴り返しながら勢いよく階段を駆け下りて行く。……なるほど、確かに特売は逃げるかもしれない。




当初の予定であった卵とナマエのポップコーンとわたくしのビールと、それから当初の予定になかったにんじんだのキャベツだのじゃがいもだのウインナーだのベーコンだの鶏腿肉だのポテトチップスだのせんべいだのチョコレートだの蜂蜜の瓶だのレトルトカレーだのお徳用の6つ入りカップアイスだのキャラクターもののシリアルだのナマエお気に入りの高級ホテル風バターロール8つ入りだの酒のつまみ各種だので、持って行った買い物袋二つはパンパンになった。かさばるけれど軽いものをナマエの袋に入れて、ひとりひとつ袋をさげて帰路につく。

「蜂蜜はいらなかったんじゃありませんか?わたくし腕がもげそうです…」
「え、じゃあはちみつの瓶こっちよこしてよ、わたし持つから」
「いやいやこんな思いものナマエが持てるはずないです、止めておきなさい」
「蜂蜜そんなに重くないでしょ!500gだもん!絶対それ重たいのってノボリのビールだよ!」
「いえいえこれは完全に蜂蜜の重さですね…だって瓶ですよガラスですよ、ビールはアルミ缶だけど」
「うー、うるさいなぁごめんなさい!」
「フフフまぁ実はそんなに重くもないんですけどね!ナマエ、あそこにアイスクリーム屋さん来てますよ、買って食べながら帰りましょう?」

どっちが先にあのワゴンへ着くか競争ですよ〜なんて声をかけながら大人げなくダッシュしたのがいけなかった。そういえば自分はビールを持っていたのだった。その日の夜、風呂上がりに開けたビールはやたら泡立っていて、プルタブを引いた瞬間ぶわぶわとキメの粗い泡が溢れだしてきた。悲しかった。けれどその光景をナマエがケラケラ笑いながら見ていたから良しとする。6Pで買ったいつもより少しだけ高いビール、残りの5缶はクダリにあげようと思う。有効活用である。



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