昼休みの休憩中に喫煙ルームで煙草プカプカしてるノボリをとっつかまえた。吸いかけの煙草は灰皿に押し込んで、ノボリの腕掴んだまま5階のラウンジへ向かう。「あぁ…まだ火、つけたばっかりでしたのに…」ぶつぶつうるさいから握る手に力込めたら痛い痛い痛いクダリ痛い!って情けない声で悲鳴を上げた。自販機でおしるこ買ってたエメットに「ナニー?痴話喧嘩ー?」ってからかわれた。うるさい違うよ。痴話喧嘩なんて言葉覚える前にもっと他の事に脳みそ使いなよ。

「……それで?どういうこと?」
「あ?あぁ……どうもこうも、やっぱり急な禁煙は厳しいので減煙の方向を目指そうかと」

そんなこと言ってるんじゃないよ分かってる癖にはぐらかすな!って耳たぶギリギリ引っ張ったら痛い痛いちぎれます!ってノボリが半泣きになった。ノボリ、僕は君が禁煙してなかったって事だけでも既にイライラが溜まってしまっているんだよ。これ以上僕をイライラさせないでくれるかな!「気が立っていらっしゃいますねぇ、どうぞクダリ、気分が落ち着きますよ」って差しだされたのはまだ包装の解かれてない煙草の小箱だった。問答無用で握りつぶしてダストシュートした。「あぁ!わたくしのタバコー!」べそべそとわざとらしい涙声でなんてことするんですクダリって文句をつけるネクタイを思いっきり引っ張る。ぐえ、ってちょっと苦しそうな声がした。

「…………それで?」
「拾いました」
「はぁ?拾った?タバコのせいで脳みそ委縮しちゃったのノボリ」
「いえいえいえ、ちょっと公園でですね、ちょっとその、見捨ててはおけなかったというか、保護したと、いうか……ね?保護ですよ?誘拐ではないです、ね?」
「ね?じゃないよ何がね?なの」

それを世間では誘拐というのだ。そもそも保護ってなんだ。何から保護するというのだ。公園にいたということは当然親御さんも近くにいただろうし、今ごろきっと半狂乱になって彼女を探しているだろう…申し訳ないのとコトの重大さが重たすぎるのとで、少し頭がずきずきしてきた。ノボリの方を見てみると、電子タバコをスパスパしていた。クソが。何でこいつは当事者の癖にこうもだらしなくいるのだろうか。そして何故僕は当事者でもないのにこんなの頭を悩ませているのだろうか。理解できない。
「まぁまぁ、大丈夫ですよ」
「何が…」
「一番近い警察署に問い合わせてみたのですが、行方不明者が出たから捜索してくれという届けは一切出ていないそうです」
「………だから?それがなに?」
「ですからね、まぁ幼い娘がいなくなったことで半狂乱になって探し歩く親御さんはいないってことで」
「そ、そんなのわかんないでしょ、警察に届けてないだけで今ごろ必死に探してるかも……」
「どうでしょうねぇ」

ふうぅぅぅ、とノボリは深く息をつく。電子タバコって煙草の味するんだろうか。

「ナマエね、痣がいっぱいありましたよ。階段から転げおちて出来たにしても多過ぎる。腕と足しか確認できていませんけど、多分おなかや背中にもあるんでしょうねぇ」

そっか、あの子ナマエって言うんだ、なんてまず最初に場違いな事を思った。

「え、それは、……虐待ってこと?」
「さぁ、分かりませんが」

まぁ我々があの子を拘束しているわけでもありませんし、公園からあの家まではあの距離です、道が分からないってこともないでしょう。あの子が自分から出ていかないならそれはそれで、軒下に猫が迷い込んだとでも思っていればいいんじゃないですか。はー…って息を吐き出したノボリは、腕にべたくたニコチンパッチを貼っている作業中じゃなければそれなりに格好良かった。

「よくそんな煙草吸ってるのに子供連れ込もうとしたね。嫌がられるだろうに」
「あぁ、もちろん家では一切吸いませんし自宅に戻る時は念入りに消臭スプレーしてますからね」

ほらね、と見せてくれた内ポケットは、携帯用の消臭スプレーがごろごろ入ってぷっくり膨れてた。か、かっこ悪い。「職場で吸うならともかく家が煙草臭くなるのは嫌なのですよね、ほら、今回のようなこともありますし。ねぇ」もうノボリは煙草やめたらいいのに。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -