やかましい





ぱぁん!と弾けるような音と悲鳴が構内に響いた。その音の正体を確かめる間もなく、続いてやってきた強い衝撃とともに目の前が暗くなってそのまま地面に倒れ込む。ぎゅっと包み込むような力強い腕と体温に、どきどきしなかったと言えば少し嘘だ。びっくりしてひゅっと吸い込んだ空気は甘ったるくてお菓子みたいだけど少しだけ苦い男の人の匂いがした。うわエメットさん超いい匂い。


ちなみに多分あの爆発音は、私がさっきノボリさんに書類を届けに行ったときつまづいて散らばしてしまったまま拾い忘れたカンシャクダマを、誰かが踏んではじけさせてしまった音だと思う。わたしを抱き込んだまま地面に低く伏せて険しい顔であたりを見回しているエメットさんに教えてあげなきゃとは思うんだけど、どうしよう空気が真剣すぎて言うに言えない。しっかりエメットさんの胸元に押し付けられた頭を頑張ってぐいぐい動かしたら、二、三歩離れたところでこれまたエメットさんと同じように低い姿勢で鋭く周りを見渡しているインゴさんが見えた。やべぇ。どうしようノボリさんクダリさん助けて!


「銃声?」
「コチラも物騒でございますねぇ」
「………あー、あのー……」
「ン?あ、大丈夫だよー。安心してイイヨ、なまえのコトはちゃんと守ってあげるからねー」
「いやそうじゃなくてあれは」
「とりあえずサブウェイマスターの所に行きましょう」
「オーケイ。なまえ立てる?ヘーキ?駅案内は、また今度してしてもらうよー。今はノボリとクダリのトコ、行こう」
「えーと、はい」


靴音をコンクリート壁へ静かに反響させつつ早足でスタッフオンリーのドアを目指した。中から聞こえるノボリさんとクダリさんの声を確認してから、かちゃりとエメットさんがドアノブをひねる。


「ノボリ、クダリ、さっきのじゅうせ」
「なまえ!君でしょ爆竹!僕あれ踏んじゃってすっごいびっくりした!」
「あれ爆竹じゃないです、カンシャクダマです」
「落としたらちゃんと拾いなさい」
「ノー!ふたりともお喋りしてる場合じゃないでしょー、さっきの銃声聞こえなかったの!」
「……銃声?」


銃声って何、ていうかエメットなまえのこと放して!って言いながらクダリさんが私の肩にかかってたエメットさんの手をべりっと剥がす。「さっき銃の音したんだよー!」「ここでは聞こえませんでしたか?」「それ爆竹の音じゃないの」「クダリさんカンシャクダマですってば」「この音でしょう?」


ほら、と言いながらノボリさんがぽとりと休憩室の床に紫色の小さな球を落として、ぴかぴかの黒い革靴でぐっと踏ん付けた。すぱぁん!と小気味良い音がはじけて、と思ったらまたわたしの視界が暗くなる。「ぶふっ!?」あたま抱き込むのやめて下さいエメットさん。胸板に鼻ぶつけました。ちょっと痛い。


「は!?っの、離れろエメット!」
「あ、あー、びっくりしたー!何ソレ、危ないよー!」
「むぐぐ」
「あっなまえごめんねー、どっかぶつけた?」
「言うほど危なくありませんよ、子どものおもちゃです」
「離れてって言ってるでしょクソエメット!」
「オウ……クダリ、口が悪いです…」
「だ、大丈夫ですちょっと鼻ぶつけたけどエメットさんすごいイイ匂いするんでプラマイゼロです!」
「なまえ、香水臭いって正直に言っちゃいなよそんな奴」
「失礼だなクダリ、くさくないよー!」
「ノボリ、さっきのカンシャクダマひとつください」
「え、はい」
「いいから離れろよはやく」
「ヤダークダリ、嫉妬する男はモテないよ」
「え、あれですか、じゃあエメットさんモテモテなんですか」
「ノボリ、これ踏ん付けると音がするんですね?」
「そうです」
「まーまーかな、女の子に不自由したことはないよー」
「踏みますよ、ワタクシ踏んでしまいますよ、………エイヤー」
「なんですかその間の抜けた掛け声」
「Nooooooo!!!銃声!!!!」
「ふごっ」
「だから違うって言ってんだろ何回なまえのこと抱きしめてんのこの痴漢野郎がさっさと帰れ!」




サブボスに夢主を取られそうになって嫉妬するサブマス没話



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