もしも僕がポケモンだったら君へ簡単にキスだってできるのに







やぁ僕クダリ。いまちょっと焦ってる。野生のポケモンに襲われてるの。現在進行形なの。あのね、僕の名誉の為に言っておくけど、僕はトレーナーとしてはかなり強い方だと思う。かなりっていうかめちゃくちゃ強いよ。多分ジムリーダーレベル。うん。でもね、トレーナーとしてポケモンに指示出すのと、自分が戦うのとではね、大分、違う!


「うにゃぁぁぁぁん」
「………きゅ」


そう、そのうえ僕、どうやら生まれたてで足の立たないシキジカちゃん……もとい、幼くかよわいチラーミィくんになってしまっているみたいなので。


「ニ゛ャッ!」
「きゅ、きゅわん」
「シャー!」
「ぎっ……」


くるくると吹き飛ぶ自分の体を、他人事みたいに認識していた。ガスッと沿道の掲示板に叩きつけられてぐわんと脳みそが揺れる。くそ、せめて人間の体だったらレパルダスになんて負けなかったのに!痛覚が麻痺してしまっているのかそれともポケモンの体だからか、全身を蝕む痛みは感じなかったけれど、視界がだんだん狭く暗くなっていく。ぼくは めのまえが まっくらになった!……なーんちゃって……あ、ダメだ意識が遠く………………そして暗転した。






「……ボリさ……センターに……す?でも手持ちじゃな……ボールには……らないんですか?」
「…なら多分野生でも……きずぐすり……ては?」
「…が……したね!」


ばしゃん!とぶっかけられたぴりぴりする液体にびっくりして跳ねあがる。な、なに?


「馬鹿!それはミックスオレです!」
「え、ええっこれ回復系じゃなかったですか?!」
「回復薬ですがそれは飲ませて使うものです!きずぐすりはこっち!あぁもう貸しなさい!」
「やっやだーやだーこの子は私が拾ったんですぅぅぅ!」
「あなたでは傷口を広げる事しか……!おや、目が覚めましたか」
「え?……あ、起きた!よかったー!ほらノボリさん、元気になったじゃないですかこの子」
「あなたが手荒に扱うから驚いただけでしょう、ちっとも元気になってませんよどうみても…あぁ可哀想になまえに拾われたのが運のつきでしたね」
「ひっど!ノボリさんひっど!」
「あぁなまえほら、きずぐすり、使ってあげなさいトロくさいですねあなたは!」
「あ、あぅ……ごめんなさい…よしよし、痛くないよー……はい、いいこ。……チラーミィちゃんごめんね、ミックスオレぶっかけちゃって…」
「本当ですよ、毛並みがベタベタになってしまっているではありませんか。あとその子はオスのようですよ」
「え?あ、ほんとだ」


ぎゃぁぁぁぁ持ち上げて確認しないでよなまえのえっちー!!じゃあ君はチラーミィちゃんじゃなくチラーミィくんですねぇなんて笑って僕の体を濡れタオルでぽんぽん拭きながらなでなでしてくるその腕から逃げ出そうとしてばたばたもがいたら脚がなまえの手をげしって蹴っちゃって、うぎゃ!なんてかわいくない悲鳴あげてなまえは僕をはなした。すとんと冷たいタイルの床に四足で降りてノボリの脚に隠れる。うぅ、ひっひとのナニ見てんのなまえのばかっ!


「おやおや……なまえはこの子に嫌われているようですね?フッ」
「な、…ななな、きっ嫌われ…!?………あ、血ィ出た」
「え、大丈夫ですか?爪が当たったんですね……きずぐすり残ってますけど使います?」
「それポケモン用ですよね?ノボリさん私を何だと思ってるんですか?」
「冗談です」


救急箱取ってきますね、あぁもちろん人間用のやつですわかってますよって言ってノボリ、ドアの向こう行っちゃった。今気付いたけど、ここはどうやらギアステーションの仮眠室みたい。僕の大きさがいつもとつがうせいで、普段見る景色と全然違うからすぐにはわかんなかった。「うー、ごめんよぉチラーミィくん…くんって言いづらくね?ちゃんでいいよね?男の子だけど」あ、そうだなまえに僕ケガさせちゃったんだ!


「無理矢理だっこしてごめん……そうだよね、君は野生の子ですもんねぇ…嫌だったよね、ごめんね」


眉をハの字にしてちょっぴり申し訳なさそうになまえが笑う。ち、違うんだよなまえ、僕ちょっと恥ずかしかっただけで、だっこ嫌とかなまえのこと嫌いとかじゃないんだよ!必死に弁解しようとして口を開いたけど人間の言葉は出て来なくって、きゅんきゅんと憐れっぽい鳴き声だけが静かな部屋に響いた。


「な、なに?いやあの、ごめんね?」
「きゅー…きゅい」
「あ、痛いの?まだどっか痛かった?」
「ギュイ!」
「違うの?」
「きゅっ」
「あはは、どうしたんですか手ぱたぱたさせて……尻尾もぱたぱた、うんうんかわいいかわいい」
「きゅ……」


あーなんてもどかしい!言葉が話せないってだけでこんなになるとは思わなかったな、怪我させてごめんねって謝りたいだけなのになんで通じないの、僕だったら自分のポケモンの言いたい事ちょっとはわかるのに、なまえのにぶちん!


「わ、なっなに?どうし……え?え、………えへへ、くすぐったいよ!」


尻尾ばたばたさせても手をぶんぶんしてもなまえにごめんねが伝わらなかったから、腕に頭すりすりして僕がひっかいちゃったとこぺろっ、て舐めてみた。うー、血の味。ごめんねなまえ。あ、……僕いま野生のポケモンなんだよね。傷なめたらきたないって、思われちゃうかな。僕多分泥だらけだったろうし…「なんですかー、痛くないよ大丈夫だよ、かすり傷ですって、えへへ」いいこいいこって頭撫でてくれるなまえの手のひらがすっごく優しかったから、ほーって安心した。よかった、嫌がられたら僕ちょっと泣いちゃうかもって思った。腕に抱かれても、今度は抵抗しない。


「お待たせしました、なかなか見つからなくて……おや、なついたのですか?」
「むふふ、かわいいでしょ!ノボリさんの居ない間に仲直りしたんです!ねー?」
「きゅー!」
「そうですか。なまえ、腕を」
「あ、すいませんもういいです、血止まったんで」
「しかし……化膿してしまうかもしれませんよ、ポケモンに付けられた傷では」
「きゅ……」
「だ、大丈夫だよ!しょんぼりしないで!大丈夫大丈夫、大丈夫ですちょーっと血が出ただけだから!ね!」
「きゅっきゅ、きゅわ」


だめだめ、なまえの腕に傷、残ったら僕泣く。すっごい泣く。人間と比べてうまく動かない手でノボリから消毒液もぎとって、なまえに差し出した。「ほら、チラーミィも消毒しなさいって言ってますよ」「えー…だって、染みる……」「きゅん」「ポケモンの好意を無下にするものではありませんよ、腕出しなさい」「うー……いだっ、いだだだだっ!?ノボリさんわざと痛くしてません!?」「気のせいですね」


じゃばっと豪快になまえの傷口へノボリが消毒液をぶちまけた。いぎゃーって悲鳴あげてるなまえのお腹にすりすりしてごめんねアピールしたら、涙目でだいじょうぶだよーって笑ってくれた。えへへ。


「あ、笑った!かわいー!」
「おや……ふふふ、よかったですね」
「よしよし、いい子いい子!いいこだねー」
「それにしても随分小さい子ですね…生まれたばかりなのでしょうか」


むむ、なまえが笑ってくれるの嬉しいけど、2人して僕のこと覗き込んでじーって眺めて、なんかその構図、赤ちゃん見てる夫婦みたいでムカつく!なまえにだっこされた状態からもぞもぞ動いてぐぐーってせいいっぱい体のばして、なまえのほっぺにちゅ!ってしてやった!どうだ!


「!!………か、かわいいー!!」
「………おや」
「きゅー!」
「おかえしっ、ちゅっちゅっ!ちゅー!かわいいなぁかわいいなぁー!」
「この短時間でよくなつきましたねぇ」
「………きゅ?」


あれれ?変だな、なんか全然なまえもノボリも動じてない、なんで?僕なまえにちゅーしたんだよ?ちゅっちゅって何度も僕にキスしてくれるなまえのほっぺぺろぺろって舐めてみたけど、あははくすぐったいよーってなまえ笑うだけで、全然、まったく、


「あ、もしかしてお腹がすいているのでは」
「む!そっか!えっとえっと、じゃあ私ちょっとポケモンセンターで何か買ってきます!」
「いえ、フーズならわたくしの手持ちの買い置きがありますから…それを食べさせましょう」
「えあっ、ノボリさんありがとうございます!取ってきますね!いってきま……フーズどこに置いてあるんですか?」
「わたくしが行ってまいりますよ…」


またノボリががちゃって出てって、僕となまえふたりっきりになった。「はー」ぼすんとベッドへ僕を抱えたまんま仰向けで寝っ転がるなまえの腕からもそもそ、「ん?どしたの?」抜け出して、なまえの胸の上まで移動した。「どしたの、チラーミィちゃん」なまえの胸にぺたって寝そべってむにむに、何とは言わないけどもにゅもにゅ手で揉んでみて、なまえ怒るかなって反応見て、だけどやっぱり「あはははー、くすぐったい!」……やっぱり、そっかぁ、僕ポケモンなんだぁ……。


「きゅ……きゅー…」
「え、な、………泣いたぁぁぁ!?っなになに、おかあさん恋しくなっちゃったかな?寂しくなっちゃったかな?よしよしよしよし」
「きゅー、きゅー」
「うんうんそうかそうか、おかーさんのおっぱいが恋しいのねよしよし」


違うんだよ違うんだよ僕ポケモンなんてやだよ人間がいいよ僕のこと分かってよなまえのばかばか、にぶちん。ゆるゆるの涙腺からべそべそ涙をこぼしながら僕はなまえの胸をポカポカ叩く。僕的にはポカポカだけど、多分なまえからしたら全然痛くなくって、マッサージよりも弱いくらいなんだろうな。なんて考えてたらまた悲しくなってきてぼろぼろって涙出た。今は子どもだから別にいいよね、泣いちゃっても。


「フーズもってきましたよ、………どうしました」
「泣いちゃいました」
「何したんですか……」
「なっ何にもしてないです!寂しいって泣いたんです、多分!」
「きゅー、きゅー」
「はぁ」
「よしよし、ごめんね、おかあさんちゃんと探してあげるからねー」


ぎゅーって抱きしめてくれるなまえを抱きしめ返せるだけの腕がない。違うんだよって伝える言葉が出せない。全然なまえに何にも伝えられない、悲しい、かなしい、なんで僕ポケモンなんかになっちゃったんだろう、人間がいいよ、なまえにちゅーして怒られないけどなまえの胸むにむにしてひっぱたかれないけどお仕事しなくていいけど、ポケモンじゃやっぱだめだ、僕は君と同じ人間がいい。ぼろって落っこちた涙が灰色の毛並みの上を滑ってシーツに垂れた。ぴすぴす鼻を鳴らしながらなまえの胸に擦り寄る。ぎゅって抱きしめて耳にキスしてくれてよしよしってしてくれるなまえのあったかい温度を感じながら目をつぶった。「おねむ?」「寝かしてあげましょう」ベッドに下ろされる感覚があったけどきゅって両手でなまえの襟のとこ掴んでやだやだした。「……離れませんね」「かっ…かわいいなぁ…!」口にちゅってされたのがわかって、驚いて目を開けようとしたけど強烈な睡魔に襲われて、なまえの体温が心地よくって、僕はそのまま眠ってしまった。






「クダリさーん、起きてー!起きて下さいよーハンコ下さいよー」


ゆさゆさ肩をゆすぶられて目が覚めた。ぱちっと開けた視界に映ったのは休憩室の白い天井と、困ったようななまえの顔。「あ、起きた!あのですねクダリさん、はんこをね、」「なまえだー!!!」「うぐごほっ」なまえなまえなまえ!抱きついて思いっきりぎゅーってしてなまえ!って呼んで、そしたらなまえは目を白黒させてわぎゃうぎゃって言葉になってない悲鳴あげてたけど、ちょっとだけ我慢してくださいなまえ。


「ぶはぁっ!な、なんですか?どうしたんですか?」
「ひどいよちょっと姿変わっただけで僕のことわかってくれないなんて!」
「何がですか!?」


なんでもない!ってもういっかいぎゅーってしてなまえの頭なでなで、あぁやっぱなまえに抱きしめられるより抱きしめる方がいいなぁ。おとこのこですもの、好きな女の子は自分がぎゅってしたいのです。はい。あたりまえじゃない?
僕をひっぺがすのを諦めたらしいなまえのほっぺへ、調子にのってちゅーってしたらセクハラですよぉぉぉってビンタされた。痛かった。えへ。




ポケ化夢主ボツ話


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