独白





僕の大切にしているスケッチブックがある。表紙が波模様のさらさらした厚紙で出来てて、薄青いそれを見るたびに僕は海みたいだなぁと考える。表紙止めの焦げ茶のリボンを解いてページを開くと、中は全部真っ白で、絵なんかひとっつも書かれていない。だけど何も書かれていないかって言うと、それも違うのだ。僕はちびて短い白色のクレヨンを手にとって、今日も彼女に伝えたい言葉を紙の上に吐き出した。白いクレヨンは白い紙の上で白に混ざって見えなくなった。ぐりぐり滑らせてページいっぱいに僕の、愛、ってやつが溢れかえって、見えなくなって、満足したからまたスケッチブックは閉じて丁寧にリボンを結んでデスクの引き出しの一番下の段へ滑り込ませた。十数冊のカラフルなスケッチブックが詰め込まれているこの引き出しは、一番下の段だけとても重たい。


僕の綴った言葉たちは、まっしろな紙にまっしろなクレヨンでかいてるものだから。偶然に誰かがこれを見てしまっても、きっと書いてあることになんか気付かないだろう。もしも彼女がこれを開いたとしても、書いてあることになんか気付けないだろう。たぶん、強くて明るいおひさまにでも透かして見てみなきゃね、並んだ文字には気付かないんだろうと思う。ここは蛍光灯の並ぶ地下だから、僕のあいことば、は、ずっとずっと僕だけしか知らないまんまで、鍵がかかったこの引き出しに、ぽかんと押し込められて終わるんだろうなぁ。デスクに肘をついてぼうっとしていると、胃が痛んでる時みたいに胸がしくしくした。もしも黒いクレヨンで言葉を並べていたなら、何か変わっていたのだろうか。溶けて見えなくなっちゃうようなぼんやりしたものじゃなくって、くっきりと鮮烈に君まで届く気持ちを晒してしまえたのだろうか。コーヒーの香りに混じって、ひそひそ恋人と楽しげに囁いている君の声が聞こえていた。隣に並ぶのは、僕じゃあだめだった?





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