「ああぁぁあ!」

「い、いきなり叫んでどうしたのトウコ」

ヒウンシティに遊びに来た私とトウコは長蛇の列に並び無事に名物のヒウンアイスを手に入れた後、海を眺めながらアイスを美味しく頂いていた時だった。

突然トウコは叫び出した。本当に前触れもなく、突然。それも周りの人も一斉にこちらに振り返る程の大声でだ。
その声を出した当人であるトウコも沢山の視線に気付き、すみませんと頭を軽く下げてから先程よりもだいぶ小さな囁くような声で尋ねた。


「さっきっから気になってたのよ」

「何が?」

「あんたの鞄に付いてるそれ」


トウコの指差す先にあるのは私の鞄にぶら下がっているバニリッチのストラップ。

「これ、トウヤも持ってた」

にやりと嫌らしく笑うトウコに眩暈がした。


「い、いやあそれは」

「視線泳いじゃって怪しーい」

「そんなことないよ」

「本当にぃ〜?」


にたにた笑うトウコを直視できない。
ごめん、その顔ちょっと怖いよトウコ!

実は私とトウヤはその、お付き合い、している。でもお互いに周りに知られるのが気恥ずかしくてどうにも言えずに隠している状態。特にトウヤはトウコに知られたくないらしい。理由は、絶対にからかわれるから。


「正直に言っちゃいなさいよ」


…トウヤ。あの時、笑ってごめん。
確かにこれは絶対に知られたくないって気持ちになるね。

それにしても気付いてるのかな?

「と、トウコさん」

「話してくれる気になった?」

「いや、アイス溶けてます」

「うわっ!やだ、最悪」


アイスは溶けてコーンを伝って、握っていたトウコの指はアイス塗れにしていた。しかし被害はそれだけではなく、少し服も汚している。
手を洗ってくると言って蛇口を求め慌てて駆けていくトウコの後ろ姿を見送る。どうやら気付いてなかったらしい。
それから私はライブキャスターを取り出しトウヤに連絡。トウコにバレそうだということを手短に伝えるとトウヤは直ぐにこちらに向かうと言って通信を切った。

その後、溶けかけている自分のアイスを口に運んだ。幸いにもトウコのアイスよりも溶けていなかったので、まだ溶けたアイスは垂れてはいない。
甘い味が口腔に広がる。長い行列に並んでまでして買う価値が有る一品だ。
何回も口に運んでいるとトウコが帰ってきたけれど、もうあのドロドロになったアイスは手に握られてなかった。


「アイスは?」

「慌てて口ん中押し込んだわよ」


散々な目に遭った、と眉間に皺を寄せふてくされているトウコ。


「あー、それで何の話ししてんだっけ?」

「覚えてないならもういいんじゃない、ね?」

「うーん…」


私とトウヤとしてはもうそのままこの話しは忘れてなかったことにしてほしいんだけどな。
だけどそう上手く行くはずもなく。


「ナマエ!」


急に薄暗くなったので雲で日が陰ったのかと思えば頭上から聞き覚えのある声。

「トウヤ!」

ヒラリとウォーグルの背から飛び降りるトウヤ。

「ああっ、思い出した!」

それと同時にトウコが声をあげた。


「トウヤ、ナマエと付き合ってんの?」

「と、トウコ?!」

「うん、そうだよ」

「トウヤ!?」

意外とあっさりと認めたトウヤはなにか吹っ切れたような晴れやかな様子だった。


「じゃあ俺、ナマエ連れて行くから」

「なんでそうなるわけ?ナマエは今私と遊んでるんだから、そんなことさせない」

「なら止めてみなよ」


トウヤは私の腕を掴んで自分の方へと引き寄せると抱き上げてそのままウォーグルに乗りすぐさま空へと飛び立つ。
地上でトウコが何か言っていたけれど風の音に声はかき消されて私に届くことはなかった。


それからヒウンシティからは随分と離れたようで段々とスピードを落としていき、今ではゆっくりと飛行していた。
トウコも追いかけてくる様子はない。


「トウヤ」

「なに?」

「あんなにあっさり認めちゃって良かったの?」

「まあいつかはバレることだし、俺はナマエとの関係を否定したくなかったからさ」


そう言って悪戯っぽく笑うトウヤは私のアイスを舐めた。
そこで私のアイスもドロドロに溶けていて自分の手を汚していることに気が付く。

「アイス溶けてる」

硬直する私からアイスを取り上げるとみるみるうちにトウヤの口の中に消えていった。

「手まで汚して」

唖然としてる私の指先を手にとってペロリと舐めてにやりと笑うトウヤに硬直。

吹っ切れすぎじゃないですか、トウヤ君?

反対側の手でぎゅっとお揃いのストラップを握り締める。
そうだ、これバニリッチのストラップだ。

…私の体温で溶けたりしたらどうしよう。

私のバニリッチとは対照的に、トウヤの鞄に付いてるバニリッチは涼しげに風で揺れられていた。


―――

お題@ペアストラップ(近江さん)






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