わたくしは仕事を終え、最終電車に乗り込みました。人は点々としか乗っていません。まあこのような時間に利用する方は固より少ないのです。
途中の停車駅で同じ車両に乗車なさった男性の手には傘が握られており、雫が滴っているのが確認できました。どうやら今地上では雨が降っているようです。今朝の天気予報では一日中晴れだと言っていたのですがどうやら外れたようですね。
しかし困りました。わたくしは今日に限って傘を持ってはいないのです。普段は折り畳み傘を鞄の中に入れておくのですが、たまには干そうと思い鞄から出したのでした。

そして電車は終点のカナワタウンへと到着。電車から降り、空を見上げると真っ暗で星が見えない代わりに雨がぱらぱらと落ちてきます。
傘を忘れたわたくしがいけないのです。仕方ないので雨に濡れて帰ることにしましょう。

駅の改札を抜け雨に打たれる。暗い駅前に傘を差して一人立っている方がいらっしゃいました。よく見えませんがどうやらスカートを穿いているようでしたので女性のようです。
誰かを待っているのでしょうか。いくらカナワタウンの治安が良いからと言っても、このような夜遅い時間に女性が一人でいるのは危険でしょう。
無防備な方もいるものです。

多少なりとも気にはなりましたが、わたくしも家路を急いでいるのでそのまま通り過ぎようと致しました。


「ノボリさん!」


呼ばれたのは自分の名前で何故わたくしを呼んだのか、この方は誰なのかを思案していると女性は傘を高く掲げてわたくしに傾けました。


「ナマエ」

「今日傘を持って行かなかったでしょう?」


近付いてやっと確認出来た顔はわたくしの良く知る顔でした。


「このような時間に…何かあったらどうするのですか」


諫めるように言うとすぐに謝るナマエ。
反省しているのか定かではありませんがそれでもあっさり許してしまうわたくしも彼女の魅力に毒されているのかもしれません。


「あと謝らなくちゃいけないことがあるの」

「なんですか」


申し訳なさそうに眉を下げる。


「傘、もう一本持ってくるの忘れちゃったの」

「そんなことですか」


安堵の溜息がでる。ナマエの手に握られている傘を受け取り肩を寄せる。


「こうすれば一本でも問題ありません」


すると恥ずかしそうに、そうだねと言って彼女もこちらに肩を寄せました。
ナマエの体は冷えていて、早く帰らなくてはという思いが浮かぶ。
しかしながらこんなになってまでわたくしを待っていてくれていたという事実が嬉しくて仕方がありませんでした。わたくしよりも幾分も背が低いナマエの髪にキスを落としてやると、ますます恥ずかしそうに顔を真っ赤にしておりました。

ああ、幸せでございます。


「それでは帰りましょうか」

「はいっ」


それから私たちは一つ傘の下、寄り添うようにして家に帰るのでした。


幸せ


−−−

お題@相合傘(近江さん)

110105 加筆修正






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