天の川もなんのその


「毎日毎日雨雨雨!湿気で髪も爆発!前髪ペシャンコ!もう最悪!」

 怒っても仕方がないことだけれど、梅雨の時期の私のコンディションは一年で一番悪い。

「そうカリカリすんなよぉ。梅雨なんだしさぁ」

 せっかく可愛くセットしても外に出て三十分もしたら見る影もない。暑がり汗っかきだからメイクも取れるし、この時期の任務は敵でしかない。
 しかも今日はよりにもよって長年密かーに想いを寄せている五条と合同任務だ。本当なら少し浮き足立ってしまうところだが、この湿度では最高にかわいい私を維持するのは無理。できる限り距離をとっておきたい。
なのに。

「梅雨ってわかってんのにどうして傘を忘れるかなぁ〜」
「いや〜傘を持ち歩く習慣がないんだよね〜」

 まったく悪いと思ってない笑みを浮かべてこちらを覗き込む五条。五条家の御曹司は傘も自分で持ち歩かないのか。
 なんとか任務完了までは持ち堪えた雨雲が伊地知君への連絡を入れた途端降り出した。
連日の雨にうんざりしつつもしっかり折り畳み傘を用意していた私は急いで傘を差したのだが、五条はさも当然かのように入ってきた。

「…せまいし……」
「ごめんごめん、あ、傘持つよ」
「ちょっと…!あんまり近づかないで……」
「なんで?」

 ただでさえ小さい折り畳み傘に一八〇センチを越える大男と相合い傘なんて密着もいいところだ。
先程からうるさい心臓の音が聞こえやしないかヒヤヒヤする。可愛くない悪態をつきながら誤魔化すことしかできない。顔も絶対赤くなってる。

「……汗くさいから…」
「え、僕そんな汗くさい?」
「いやそうじゃなくて私が……」
「そう?」

 そう言ってスンスンと私の頭の上や耳元に寄せて匂いを嗅ぎ出すものだからたまったもんじゃない。

「吸うな嗅ぐな!」
「あ、シャンプー変えた?」
「か…、変えたけど!もう勘弁して……」

五条が至近距離にいることや恥ずかしさやらで心臓が耐えきれなくなって、思わず赤くなっているであろう顔を両手で覆った。早く伊地知君迎えに来て…!と心の中で祈る。

「そういえば今日七夕だね」
 五条の思い出したような言葉に覆っていた手を退かした。
「……めっちゃ雨。天の川は見えないね」
「そうだねぇ」

 片想いをする身としては七夕に五条と二人なんてロマンチックとも言えなくもないなと、そんなことを思ってしまった自分の拗らせ具合に少し呆れた。

「五条は一年に一度しか会えない人のこと想え…ないよね絶対浮気するな」
「ひどくない?僕をなんだと思ってるの」
「じゃあその一日のために三六四日働いて禁欲できる?」
「むり。一年に一回とか絶対無理」
「ほーら」
「大丈夫だよ、神様が離れ離れにしたって空飛んで連れ攫っちゃえばよくない?」

よくない?じゃないよ。また神様怒らせてどうすんだ。

「……そういうとこだぞ、唯我独尊!」
「愛のためなら神だって川だって越えちゃうよ〜」

 五条はどういう仕組みか知らないけど本当に空を飛べてしまうからしょうがない。五条はどうしたって真面目な彦星にはなれないなと確信する。

「ていうか七夕の日って絶対雨らしいよ。織姫が嬉し涙を流すから。めっちゃ健気じゃん?」
「……じゃあこの雨は織姫と彦星が無事に会えたっていう証拠なんだね」

 どんどん強まる雨脚も織姫の嬉し涙だと思えばまぁ少しは、今日の雨だけは許してあげようかなと織姫と彦星を少し羨ましく思った。
水飛沫が上がる音がしてそちらを向くと、ようやく伊地知君が運転する車がスピードを落として近づいてきた。

「お待たせしました!」
「伊地知遅っせーよ。風邪ひくじゃん」
「五条さんは無下限あるんだから雨濡れないでしょう…」
「そういう問題じゃないんだよ気持ちの問題だよ」

…まてまてまて。無下限?そうだ、こいつに傘を持ち歩く習慣なんてそりゃないわ。そもそも要らないんだもん。

「……そうじゃん、五条雨濡れないじゃんか!」
「いや気づくの遅くない?何年同期やってんだよ」
「はい!?」
「お二人とも早く乗ってください……」

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