外堀を埋めはじめる


「テッペン超えちゃいましたね。」

 徒党を組んだ呪詛師殲滅の任務に七海1級術師と派遣されてから約14時間。呪術師に9時5時なんてないけれど時間外労働もいいところだ。
さすがに疲労困憊。腕時計の針はきっかり九十度を示している。
補助監督に迎えの連絡を入れ終えた七海さんがスマホの画面を眺めながら口を開いた。

「今日誕生日なんです。」
「え、7月2日?」
「7月3日です」
「あ、そっか0時超えたんでしたね。」

 何度か任務に同行したくらいで七海さんの事など何も知らない私は突然ぶっ込まれた個人情報と、七海さんが自分の事について話すことが珍しくて少し驚いた。
長時間労働がひと段落して気が抜けたのだろうか。まぁ何はともかく、

「おめでとうございます。仕事中に誕生日迎えるなんて災難ですね」
「全くです」

七海さんはおいくつになったんだろうか。というかこの年頃の男性も誕生日とか気にするんだ…。私はそろそろ自分の年齢を数えるのも億劫になってきた。自分の誕生日が嬉しいような寂しいような、複雑な感情にさせるようになったのはいつからだろうか。

「もう時間も遅いので報告書は夜が明けてから、高専で仕上げましょう」
「はい」

報告書という言葉に誕生日に思いを馳せて遠くの方に飛ばしかけた意識を戻した。

「そのあと反省会を兼ねて食事にでも行きませんか」

これまた突然のお誘いにパチクリと目を瞬かせた。今までわざわざ反省会のために食事に行くなんてあったっけ。
仕事とプライベートはきっちり分けるタイプと思っていたけど意外とそうでもない?

「……いいんですか?せっかくのお誕生日ですし、予定あるんじゃ…、今日反省会しなくても……」
「いえ、反省会は必要です」

 若干被せ気味で反省会の必要性を説く七海さん。誕生日まで仕事、後輩のフォローなんてつくづく真面目な人だなぁ。恋人とバースデーディナーとか入ってないんだろうか。入ってないから後輩を誘うのか。

「わかりました。七海さんの誕生日会兼反省会にしましょう」
「誕生日会なんて柄じゃないですよ」
「まあまあ。経費ぶんどってしこたま飲みましょうよ!」
「経費は正しく使いなさい」
「せっかくだし猪野とか呼びますか?七海さんの誕生日会なんて言ったらすっ飛んできますよ」
「いえ、あくまで今回の反省会なので、2人きり、で」

やけに"2人きり"を強調したように聞こえたのだが気のせいだろうか。
「誕生日に2人で食事」なんて五条さんに知られたら絶対揶揄いのネタにされそうだな。
いや、これはただの反省会、なのに七海さんの誕生日だと知ってしまったからなんだか意識してしまう。

「……じゃあ反省会、お願いします」
「店の予約はしておきます」

減速して近づいてきた車のヘッドライトが私達を照らした。補助監督が運転席から手を振っている。

「では。そういうことで」

そう言って会話は切り上げられ、七海さんは車の中では一切喋らず目を閉じていた。
補助監督さんに「寝てていいですよー。」と言われて目を閉じてみたものの、なかなか落ち着かなかった。


「七海さんの誕生日お祝いなので私がご馳走します!」
「結構です」

七海さんの運転する車の中でそう宣言したが一刀両断された。

「えぇ……。いつもお世話になってるしそれくらいさせてくださいよぉ……」
「私はあなたより稼いでますし、これはあくまで反省会なので。……でもそうですね、あなたが私に乾杯してくれたらそれで」
「……やっぱり反省会じゃなくて誕生日会じゃないですか……」
「せっかくならあなたに祝ってもらいたいので」

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -