7.夢、うつつ?


「なまえさん……」

 肩を遠慮がちに叩かれ、優しい声が降り注ぐ。「うーん……」と重い瞼をしぱしぱと開くと外が薄ぼんやりと明るくなっている。
座りっぱなしで寝落ちていたのかお尻が痛い。やば…化粧落としてないかも…。
 
だんだんと頭が覚醒して状況を整理しはじめた。最近ずっと金縛りにあって寝れてなくて、それを七海君に相談して、深夜まで付き合ってくれると言って映画でオールして……と思い出し顔がサーっと白くなった。

 2時間弱あったはずの映画だが、ほとんど記憶がない。前半に「おいおい、なんで自分から首を突っ込んでいくんだ主人公!」と思ったことは確かなのだがそれ以降の展開がつまらなすぎたのかいつのまにか眠ってしまっていたようだ。

「……眠れましたか」

左上から降ってきた声に顔をあげる。至近距離に七海君の顔があり、目線がバチッと合う。七海君の肩にもたれて寝落ちていたようだった。

「ごめんなさい!寝落ちしちゃって…お、重かったよね、お尻痛くない?!ほんとごめん…」

条件反射ですぐさまバッと体を離し、平謝りした。

「いえ、重くないです。お尻も大丈夫です」

七海君はしれっとした顔で淡々と返事してくれているが、私はキャパオーバーだった。

「わぁー、家主が寝るなんて!何か変なことなかった?」
「大丈夫ですから落ち着いてください。それよりも金縛り、どうでしたか?」

はたと、気づく。そういえば、今夜は金縛りに遭わなかった。それになんだか体も軽い。

「今日…はありませんでした。心配かけたのに拍子抜けだよねごめん…」

申し訳なくてぺこっと頭を下げた。
七海君がふーっと溜息をつき大きな手を私の頭の上に置いた。七海くんの手の重みで頭が少し下げられ、そのままぐりぐりと撫でられた。状況が掴めずポケッとした顔で七海君の顔を下から覗き込むと、どこかほっとした表情をしており、また頭をぐりぐりとされた。

 雑に頭を撫でられるのがなんだか心地よくて目を閉じると走馬灯のように頭に断片的な映像が流れた。
そうだと思い出した。

「……なんだか、不思議な夢を見た気がする」

 金縛りには合わなかったけど、今日の夢はなんだか鮮明だった。

「なんか七海君がお化けを退治してたよ。しかも素手で!おばけって触れるんだねぇ……」
「……昨日の映画に影響されたんじゃないですか」
「そうかも。なんていったっけ……あ、エクソシストみたいだった!」
「……何度も言いますがクリスチャンではありません」

 ローテーブルの上に散らかしっぱなしだったゴミや食器は綺麗に片付けられていた。

「私は今日も授業があるので一旦帰ります」

まだ早朝ともいえる時間だがテキパキと上着を着て帰り支度をしている。

「金縛りに合わずに一晩過ごせたの久しぶり……。ほんとに付き合ってくれてありがとう」
「もう、金縛りには合わないと思いますよ」
「え、なんで?」
「祓っておきましたから」
「祓うって……。七海君、もしかしてお寺生まれなの?」
「エクソシストでもないし寺生まれでもないです。……冗談です。もし異常があればすぐに連絡してください」
「うん、また映画でオールしようね」

 玄関に向かっていた七海君がピクリと止まる。
やれやれといった様子で振り返り口をへの字の曲げて私を見下ろす。

「今回は例外です。……男を一人暮らしの部屋にあげるといった判断をしてしまうくらいには正常ではなかったようなので。」
「七海君なら大丈夫かなって思ったんだもん。」
「それは光栄ですが、あんまり安心しない方がいいですよ。私も男なので」
「……これからは気を付けます」
「あんまり人前で寝顔を晒すもんじゃないですよ」
「やっぱり見られてた!?私は七海君の寝顔見てないのに……」
「寝てる間に何かされても知りませんよ」
「でも七海君はしないでしょ?」
「……どうかな。」
「え。」
「では。また来週の三限で。」
 
ガチャリと開かれたドアから朝陽が差し込んできた。
眩しさに目を細めている暇に七海君は出ていってしまった。
 七海君が帰ってしまったからなのか、ほんとに得体の知れない何かがお祓いされたのか、とにかくなんだかスッキリした部屋で昨日の七海君との一日を思い出し、恥ずかしさと浮ついた気持ちを抑えるように頭を抱えた。

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