4.ツイてる?ツイてる。


 
 その後の授業でも私はうつらうつらとしていた。一緒に授業を受けていた友達には「なんか憑いてるんじゃない?」と怪訝な顔で心配されたが、睡眠不足で体が重いだけだよと笑って誤魔化した。友人の言葉で余計に体がずんっと重くなった気がした。こりゃ病院に行くしかないか。……いやお祓いとか行った方がいいのかな、とフラフラと教室を出たところで、スマホがピコンと鳴った。


『今授業が終わりました。学食で座って待っててください。』


 あぁ、そういえば七海君と連絡先交換したんだったなとつい先ほどの授業終わりでのやり取りも朧げな自分に呆れる。絶対一人で帰るなって言われたし、おとなしく学食で待っていようと、食堂に足を向けた。

 学食のテーブルに上半身を投げ出し、ボーっと少しずつ暗くなる窓の外を眺めて待っていたら、5分くらいで七海君は来てくれた。

「お待たせしました。」

少し息が上がっているようで、走ってきてくれたのかなとぼんやりと思った。

「こちらこそ、わざわざありがとう。ていうか送ってもらわなくても大丈夫だよ。熱ないし。」

これ以上心配をかけたくないしとへらりと笑ってみせた。

「そんな足元も覚束ない状態で一人で帰せるわけないでしょう。事故にでも遭ったらどうするんです。」

眉間の皺を深くした七海君は少し怖いが優しい人だなぁと思う。

「さぁ、帰りましょう。正門ですか、北門ですか。」

 七海君はぼんやりしている私のトートバッグを自分の肩にかけて椅子を引いて立たせてくれた。
紳士だなぁ。と感謝しながら「北門からで…。」と伝えた。


「で、眠れない心当たりはなんですか。」

と自宅までの道すがら口を開いた七海君に、もうこの際、引かれても何でもいいや。と開き直った。

「……金縛りに遭ってて。ここのところずーっと。」
「金縛り?」
「うん。はじめは足がつったみたいな感じだったんだけど、最近は胸まで重たくて。何かに圧し掛かられてるような感じで息が詰まるの。」

七海君はフム…と顎に手を当ててなにか考えているようだった。
 よかった。ここでふざけてるんですかとか笑い飛ばされていたら私のメンタルはぽっきり折れていたかもしれない。

「それで、最近は一人で寝るのも怖くなっちゃって。病院で睡眠薬でも貰おうかな……って思ってたとこなんだ。」
「そうでしたか……。」

 やっぱりちょっと引いたかな?とちらっと視線を上げて七海君の顔をうかがうとまた眉間をギュッと寄せ、唇はむっと結んで何か考えているような表情で遠くを見つめていた。
七海君はそれきり口を開かなかった。

 「あ、あそこ。私の家。」

 小さな十字路の角を左に曲がってすぐのアパートを指さす。

「あぁ、あそこ……。」
「送ってくれてありがとう。七海君の家はこっちのほう?遠回りさせちゃったらごめんね。」
「……。いえ、近いので気にしないでください。」
「……じゃあ、また来週ね」
 アパート前まで送ってくれた七海君に手を振り、自分の部屋へと続く階段を上る。
 ちょっと心細いが、原因を話せて気が楽になった。睡眠薬をもらえれば今の状態から少しはマシになるだろう。明日にでも病院に行こう。重い足取りで歩みを進めた。
「…あの!」

下から七海君の声がした。
外階段の踊り場から身を乗り出すと、七海君がこちらを見上げていた。

「……お手洗い、借りてもいいですか。」

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