(side:zaizen)

四天宝寺中学校に入学してから新しい出会いは腐るほどあったけれど、クラスの外見にしか気を使わへん女にはまったく惹かれへんかった。

俺が惹かれたのは部活の先輩、マネージャーの香川ゆかりさん。

「新しく入った財前光っす、よろしくお願いしますわ。」

『わたしはマネージャーの香川ゆかりです!よろしくね。』

自己紹介のときに見た先輩の眩しい笑顔。媚びを売るような笑い方やなくて自然に出た感じのきれいな笑い方をする人やなって、素直にそう思った。
いつも同じ表情に見えるクラスメートとは別次元の存在だった。


1つ年上のゆかり先輩は仕事を何でもてきぱきと手際よくこなす。もちろんそれだけじゃなく後輩の面倒見も良くて、俺が転んで怪我をしたときにも医者顔負けの手当てをしてくれた。

先輩らの制服のボタンが取れてたら持ち歩いている裁縫道具でパッと縫ってまう。

弁当はいつも先輩が自分で作ってて、よくもらう卵焼きからはいつも優しい味がした。オカンが作る卵焼きとも、兄貴の嫁が作る卵焼きともまったく違う。先輩の卵焼きが一番好きや。



俺がそんな先輩に恋に落ちるのなんて1ヶ月かからなかった。




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