「ゆかり、おはよ。朝から息切らしてどうしたの?」
そんなにギリギリな訳でもあるまいし、と呟く友達の顔を見て安心する。 忍足くんが急に怖くなって思いっきり腕を振りほどいて逃げてきた。掴まれてたところはもちろん赤くなっていて、今日は袖をめくれそうにない。 言葉を声にしたいのに途切れ途切れでなかなか発せられなくてもどかしい。 大丈夫?と背中を摩ってくれる友達の手がとても優しく感じた。
呼吸が落ち着いてきたところで、窓側一番後ろの自分の席に向かう。 カバンを置いて椅子に座り一息。心配してくれた友達にお礼を言ってチャイムが鳴る。
「ごめん、後で話すね。」
ざわついていた教室もチャイムと共に入ってきた担任の姿で静かになった。 しかし再びざわざわと話し声が溢れる。 どうやら席替えをするらしい、今の席気に入ってるから別にしなくていいのに。 でもそれは前の方の席の人にとって不公平なのでわがままを言うわけにはいかない。
窓側から順番に担任の用意したくじを引いていく。 すぐに自分の引く番がまわってきて、できるだけ深いところから紙を取る。
「うっわ…。」
見事に一番前の席を引き当ててしまった。しかもど真ん中。
まったく不運だ、きっと今日の星座占いは12位だった違いない。 遠くの方から宍戸の「やっべ、俺教卓のまん前だわ!」という声が聞こえてきた。 全員が引き終わったところでガタガタと机を移動させる。
「あっれ、ゆかりもしかして席近いかな?」
「え、まなどの変?うち一番前なんだけど、教卓の前。」
「うっそマジで!?宍戸くんの隣じゃん!あたしあんたの1つ後ろ。」
いいなーいいなーと縋り付いてくる友人に、わたしは無言で自分の紙を差し出した。 一番前の席より1つ後ろの方がまだ幸せだ。
嬉しそうな友達を尻目に、わたしは忍足侑士のことが頭から離れなかった。
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