今日はわたしの誕生日。

日付が変わった瞬間に友だちや先輩後輩たくさんの人からお祝いのメールをもらった。
一件一件読みながら大切に保護しているとこれまでたくさんの人にお世話になったんだなぁと感慨深くなる。
読み進めていくうちに時計を見たら夜も大分更けていた。

そこでふと気づいた。
そういえば、幸村からまだメールがきてない。

幸村は部活で忙しいし、なんたって強豪校の部長だ。日付が変わる前に寝ちゃったんだと思う。
いつもの彼を考えると意地でもわたしのケータイへ一番にメールをねじ込んでくると思ったのに。

大会前だしやっぱり忙しいんだよね。

それでも、ともうちょっとねばってメールを待ってみたけれど来る気配はなく、結局睡魔に負けて寝てしまった。

朝起きてからも幸村からのメールはきてなくて、モヤモヤした気持ちを抱えながら学校に向かった。

「はよっスゆかり先輩!誕生日おめでとうございます!」

「おはよう赤也くん、ありがとう。」

「これ先輩に俺からの誕生日プレゼントです!大切に使って下さいね!」

手渡されたのは包装もなにもしてないただ真新しいシャーペン。
そういえばこの間、お気に入りのシャーペンが壊れたと赤也に話したっけ。覚えていてくれたのが嬉しかった。

「本当はきれいに包みたかったんすけど金なくて、箱は俺が壊しちゃいました!」

まったく悪気もなく言う赤也が可愛らしく思う。

「ありがとう、大切に使うね。」

「はい!」


他にもジャッカル君や柳生くん、ブン太たち一部のレギュラーの面々にも祝ってもらった。
でもその中に幸村の姿はなくて、その後柳くん真田くんに会ったけれどその時もやっぱり幸村はいなかった。
もしかして今日休みなのかな、また体調悪くなって病院とか?
幸村がいないことに誰もつっこまないから一層不安になる。

聞く勇気が出なくて、気持ちを押さえながら今できる精一杯のありがとうを返した。


***

どうやら学校には居るみたいだ。
教室の女の子達が「今日も幸村くんかっこよかった!」と大声で叫んでいたのがソース。
一応クラスは覗いてみたけれどその時はいなくて、また覗きに行っていなかったらきっと悲しくなるから見に行くのはもうやめておいた。
体調を悪くした訳じゃないのなら、それだけで良かった。

授業のチャイムで席につき、気持ちを切り替えようと思ったけれど、考えるのはずっと幸村のことで頭から離れなかった。
次の定期テストの結果が悪くなったら絶対あいつのせいだ。
話を聞いてなくて指されて恥をかいたのも、体育の時間に躓いて転んだのも全部全部幸村のせい。



気が付いたときにはクラスに誰もいなかった。
外からは運動部の声がして、遠くの方から楽器の音がする。すぐに部活の時間だと分かった。
わたしはもう引退してしまったから後は帰るだけ。

帰ったらおいしいご飯とケーキが待っている。
重い腰を持ち上げ、だるい足を前に出して下駄箱に向かう。
外に出たら真っ赤な夕焼けが目に染みてふと真田くんの声が聞こえた。
テニス部を見に行ってみようと思ったけれど、薄々勘づいていた避けられてることが事実だとわかったら絶対ショックを受ける。
誕生日にこれ以上精神的なダメージを受けたくない、なので大人しく家に帰った。


家に着いて楽しみに待っていたご馳走とケーキ。
時計を見るとすでに部活は終わっている時間で、もしかしたらとケータイを開いても受信着信はない。
あまり良い気分になれないまま、チクタクとわたしの誕生日は終わりに向かっていった。


***

「ゆかり、お客さんよ。」

部屋にいるときに親に呼ばれ、こんな時間に誰だろうとリビングに降りてきたらにやけてる母。
まさか、と玄関へ走る。

勢いよく開けると何だか久しぶりに会ったように感じる彼の姿。


「夜遅くにごめん、ゆかり。誕生日おめでとう。」

「…本当に色々、遅いんですけど。」

ごめん、とまったく悪びれた様子なくもう一度謝る。
もちろん幸村は体調も良さそうで怪我もなくて、心配して損した。むしろわたしの方が一日調子悪かったと思う。

「ゆかり今日ずっと俺のこと考えてたでしょ?」

「幸村ってほんと意地悪だよね…」

「だからごめんって、それに俺も一日中ゆかりのこと考えてたよ?」

もう一度、誕生日おめでとうと呟き子どものように笑う彼が、堪らなくいとおしかった。




まにゃちゃん遅くなりました、
誕生日おめでとう(*''*)


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