今日の予定気温は30度超え。

太陽はちょうどわたしたちの真上、つまり1日の中で一番暑い時間帯。
心なしか、ついこの間までよく聞こえていた鳥の泣き声や犬の吠える声を聞かなくなった。
アスファルトはメラメラと揺らめいて額から流れる汗はポタリと地面に落ち、あっという間に吸いとられ消えてしまう。


「…暑いんですけど。」

「…暑いっすね。」

並んで歩く彼は財前光。
わたしは自分の自転車を押していて、財前はそのまま徒歩。
本当なら2ケツで自転車に乗って風を感じたいところなんだけど、わたしはチキンのためそんなことはできない。バランス感覚のないわたしには自殺行為だ。
そんな猛暑の中、いつもクールで低体温な財前が歩いているだけで汗をかいているなんて、何だかめずらしいものを見たような気がする。しかも汗を足らしているのって、すごく色気があると思う。猛暑万歳。

「なにジロジロ見てんすか。」

カメラに押さえてしまおうかと思ったけれど、そんなことをしたらきっとケータイを逆パカされる。
それだけは勘弁なのでせめても、と彼の姿を目に焼き付けるためにじっと見つめていたら逆にわたしが冷たい目で睨まれていた。

「あんまり見るんやったら金とりますけど。」

「減るもんじゃないし、別にいいじゃない。カメラに押さえないだけマシだと思っていただきたい。」

「…ほんまに、暑いっすわ。」


下らない会話にもう労力は使わない、とばかりに話を切られまたふらふらと歩き出す。

時折すねにペダルが当たり「いたっ」と声をもらしたり、素足が自転車の金属部分に触れ「熱っ」とわたしが呟く以外声がなくなってしまった。
もう一度話しかけようかなと思ったけど無視とか流されたらちょっとショックだしどうしようかなと思っていたらふと伸ばされた手。

「チャリ、代わりますわ。」

目の前には長い長い上り坂、遠くの方は霞んで見えてしまうほどこの日の坂は辛く見えた。
言われるがままに自転車を手放し開いた両手で汗を拭う。

そしてまた、無言のまま坂を頂点に向かって進み出す。

会話はないけれどなんとなく居心地は良くて、暑いのは嫌だけどいつまでも歩いていたいなぁと思った。
きっと財前は「死んでも嫌っすわ」って言うだろうけれど。


そしてこの後、下り坂で2ケツに挑戦して絶叫することになるのだった。



いおりんへ!
遅くなっちゃって申し訳ない。 あと季節フライングしてしまった。


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