「ゆかり、誕生日おめでとう」
「ありがとう、蔵!」
年に一度の記念日、わたしがこの世界に生まれた日。 日付が変わると同時にきた友だちからのお祝いメール、朝起きたら家族からの祝福、年を一つ取るだけでとても幸せな気分になれる。
「今日部活オフやから、ゆかりが行きたい言うてたカフェでも行こか。」
「本当?!放課後が楽しみだなぁ。」
楽しみがあると一日が長く感じるけれどこんな日はいくら長くても苦にはならない気がする。 7時間以上も先のことが今日の授業の間じゅう頭から離れなさそうだ。
***
「じゃあ改めて、誕生日おめでとうさんゆかり。」
「ふふ、ありがとう。」
ずっと行きたかったこのお店にこうして蔵と来れたことが何よりも嬉しかった。 目移りするこだわりのメニューに色々と悩んだけれど、その中からやっとのことで二つにしぼる。
「うーん、パスタとドリアどっちにしようかな。」
「他に食べたいのはないん?」
「うん」
ほんならええやろ、と蔵はまだ迷ってるわたしを尻目に店員さんを呼んでしまった。 あわてて決めようとするけれどあっという間におしゃれなウェイトレスさんが来て蔵がメニューを指差して勝手に注文してしまう。
「ボンゴレパスタとこのドリア、ゆかり飲み物どうする?」
「え、あ、えとレモンティー?」
流れるように注文を終え、可愛いウェイトレスさんはしばらくお待ち下さいませと厨房へ消えた。
口を挟む暇がなかったけれど、蔵が頼んだものはわたしが迷っていた二つのメニュー。
「よかったの?」
「せっかくの誕生日やん、食べたいもの食べや。半分こっつな?」
何でわたしの彼氏はこんなに紳士的でかっこいいのか、本当にわたしの彼氏なのか。もしかして長い夢を見ているのかもしれない…!
アホなことを考えているうちにサラダやスープがきた(セットにしてあったみたい)。小春ちゃんが大絶賛してた通りすごくおいしい。 あっという間に来る料理を食べ終えてしまって、満足感と幸福感でいっぱいになった。
「ほな、そろそろええかな。」
食べ終えたしもう帰るのかな、と立ち上がろうとしたら止められる。 わたしはよく分からないままもう一度座り直し、蔵はウェイトレスさんを呼ぶ。そして耳打ちをして「かしこまりました。」と優しい笑顔を浮かべて下がって行った。
「何したの?」
「気にせんでええて、もう少しゆっくりして行かへん?」
「いいけど…。」
すごく気になったけど、深く突っ込むことはしなかった。 他愛のないおしゃべりを数分続けていると、先程のウェイトレスさんが新しいお皿を持って現れた。
「ゆかりさん、お誕生日おめでとうございます!」
その一言で店内は薄暗くなる。 コトンと置かれたお皿にはホールケーキが乗っていて、蔵の仕掛けていたことがついに分かった。 蔵は受け取ったライターでろうそくに1本1本ていねいに火をつけていく。 何人か店員さんが集まり誕生日と言えばのあの曲を歌いはじめる。そしたら他のお客さんもつられて歌い出して、照れ臭かったけど嬉しさの方が大きかった。
「ハッピーバースデー、ゆかり!」
「ありがとう、蔵!」
今、わたしは人生で一番幸せな時を過ごしている。
/title by 雲の空耳と独り言+α みちゃん誕生日おめでとう(*'▽'*)
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