「なんや、また振られたんか。」
『…うるさい。』
わたしはほんの数分前に失恋した。 人よりちょっと束縛が強くて、不安になりやすいだけなのに。
わたし以外の子と仲良くしゃべってるなんて嫌だ、とられるんじゃないかって怖くなる。 それに連絡をとってないと今何してるのか分からないもん。 重い重いって言われるけど、不安なんだから仕方ないじゃない。
そんなこんなで中学に入ってから両手で数えられるくらいの人と付き合ってきて全員に振られた。
「ほんまに重いんやな、ゆかり。」
『別に重くなんかないし…。』
「は?俺は体重の話やで何勘違いしとるん。」
『死ねよマジ。』
時々自分は結婚できないんじゃないかと思う。 自分では変なつもりなくても友だちは直した方が良いって言うし、直そうと思っても他に不安を消す方法がない。
振られたらいつも行く光の家。
光とは幼なじみで、ベランダ越しに部屋が隣だからいつでも会うことができる。小学校に上がったばかりの頃はベランダを飛び越えて相手の部屋に行こうとして危ないと怒られていたけれど、今は難なく移動することができる。
気の済むまで泣いて愚痴って絶対迷惑なはずなのに、光は追い出さないでいつも最後まで話を聞いてくれる。
『あーあ、そこらへんに顔が良くてわたしに合わせてくれる素敵な人落ちてないかな。』
「…ここにおるやん。イケメンでお前に合わせられる奴。」
『は?』
光は冗談を滅多に言わない。 だからその言葉の意味をすぐには理解できず光の次の言葉を待つ。
「俺はお前以外の女に興味持ったことあらへんし喋る気もあらへん。連絡を取らんと不安ならいつでも俺の部屋にきたらええ。」
優しく肩を抱き寄せられる。いつもそばにいるのが当たり前だった光を幼馴染みとしか見ていなくて、意識することのなかった自分を抱き締めるしっかりとした腕、大きな肩幅。光は男になったんだ、と改めて思った。 けれどわたしを撫でる優しい手つきは変わらないままで、それがわたしをひどく安心させる。
もっとはやく気付いていたら辛い思いをしなくて済んだかもしれなかった。 小さな後悔をするけれど、今は後悔よりも安心の方が大きい。
「これからは俺が幸せにしたる。」
『…よろしくお願いします。』
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