リョーガがいなくなった後の部屋は少し広く感じる。
何年も同じところに住んでるというのにたった数日いただけの男のせいでそう感じてしまう。

彼が数時間前までいた部屋を名残惜しく思うけれど仕事に向かう。
このまま彼と付き合っていたら結婚適齢期を過ぎてしまうだろう、けれど自分から別れを切り出せない今は仕方ないかなと思う。


仕事なんてなんの楽しみもない。
ただ生きていくために働いている、そんな日々は本当につまらない。
女友達とはよく遊ぶけれど、それと生活費以外にお金を使うことは滅多になくてひたすら増え続ける通帳の額。
リョーガに頼まれたら、わたしは惜しみなく全額差し出すだろうけど、一度もそんなことはなかった。


***

あいつがいなくなってから2ヶ月。

今日もただ黙々と書類と闘う。
ふと顔を上げ時計を見たらすでに昼休みに入っていた。

「ゆかりさん、ちょっと聞きたいことがあるんですが…。」

『いいよ、どうしたの?』

後輩の美南ちゃん。
会社で一番信頼のできる後輩。よく相談に乗るし、相談することもある。
今は片想いをしている、きっとそのことについてだろう。

お弁当を持って食堂へ向かう。


「あの、リョーマくんのことなんですけど…。」

この子はわたしの彼氏の弟、越前リョーマくんに片想いをしている。中学高校と一緒らしく、たまたま就職したら兄のリョーガと付き合っているわたしと出会った、ということだ。
わたしもリョーマくんと何度か会ったことがあるし、何かあったらと連絡先も交換してある。
けどよく話すという訳ではないから、きっと力にはなれてない。

話を聞きながら二人で弁当を食べる。


「…ゆかりさんさっきから全然減ってないですよね。大丈夫ですか?」

『食欲ないんだよね、ここ最近ずっと気持ち悪くて。』

あまりご飯を食べたくない。
家ではゼリーや栄養ドリンクに頼りっぱなしだ。

「胸は張ってたりしますか?」

『んー、ちょっと痛いかな。』

「…生理は、いつ頃から来てないですか?」

そういえば遅れている気がする。それどころか、予定日から1ヶ月くらいきていないような。
…これ、もしかして。

「ゆかりさん、妊娠とか…?」

『ま、まさかね…そんなはず、ないと思う…多分。』



その夜、家に帰って市販の検査薬を使ってみた。

結果は陽性だった。


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