あの夢のような時間、ほんまに夢やったらええのに。
朝起きて第一にそう思った。

はは、昨日をやり直せへんかな…神様なんとかしたってや。


明日も行っていいか聞いた、でも約束した訳やない。
でもあれは行きますって言ったようなもんやろ、俺が言われたってそう思うわ。

ベッドの上で悶々考えこんどったら時計の針は予想以上進んでいる。

(やっば…!)

急いで着替えてパンくわえて玄関を飛び出る。お決まりの展開やったらここで誰かとぶつかって恋に落ちるところやけど俺に今その出会いは必要ない。
それでも人とぶつかる可能性はあるからコケの生えた曲がり角を、壁から少しから離れて曲がる。
白石に見られたら無駄多い曲がり方や言うやろな。

セミがミンミンツクツクせわしなく鳴いとる。これオスが愛を叫んどるのやろ?俺もこれくらい堂々叫びたいわ。
現実は逃げてばっかのヘタレ男。
謙也のこと言えへんわ。


フラれてもかまへん。
最低だと言われることをした。

黙っておけばバレへん。けれど隠したままは嫌や。白石との約束も破ることになる。
それでも、嫌われたない。
黙っていたいんや。

臆病者なんや。フラれるのが怖い、返事を聞きたくない。だから逃げる。
でも気になる。あいつは俺をどう思っているんや。


気が付いたら部室の前。
遅刻寸前だと走ってきたら逆に早めに着いてしまった。

誰もいないコート、横目に見ながら部室のドアを開けたらそこには白石がおった。

「…早いな。」

「おはよう、ユウジこそ早いやん。」

いろいろな感情が、それも醜い感情、白石への嫉妬・それに対する自己嫌悪。ぐるぐる頭の中巡りに巡っておかしくなりそう。

「嫌われたく、ないねん…最初っからあないなこと、せぇへんかった良かった。」

それら全部、涙と一緒に白石に言ってしもた。


「…少しは落ち着いたか?」

「おん、すまんかった。」

白石以外のやついなくて良かった。男が朝っぱらから情緒不安定で泣いてんねん、こっ恥ずかしいわ。

「今すぐとは言わへん。覚悟ついてから自分で全部話して、それっから返事聞いてこい。」

「…おおきに、白石。」



真っ向勝負する気やったんやけどな。



でも結局、俺は逃げた。

手術の日までゆかりのところに行くことはなかった。





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