『謙也!パン買ってきてや!』
「まかせとき!」
今日も俺は愛しの彼女にパシられ購買へと走る。
別に嫌な訳やないし、ゆかりが行くより俺の方が速いから昼休みを長く一緒に過ごせるっちゅー利点がある。無駄のない完璧な作戦や。白石に言うたらアホや言われたけど。
別に白石にあきられようと、ピアスだらけの後輩に更になめられようと俺はかまへん。 パシるパシられるだけの関係やあらへんし、ええやんか。 俺は彼女のためを思うてやっとるだけや、文句なんて言わさへん!
不器用でうまく言葉にできない俺なりの愛情表現や。
「じゃあ謙也さんは彼女からの愛情表現って受けたことあるんすか?」
「はぁ?ん、んなもんあるに決まっとるやろ!」
そういえば、ゆかりから直接好きや言われたことあらへん。告白は俺からやったし。 昼飯誘うんは大体俺のほうからやな、時々誘われることもあるけど。っちゅーか俺が昼休みにダッシュで会いに行っとるだけや。 あいつから言われるんは大体パン買ってきてとか、朝迎えにきてとか、帰り送ってってくらいやな。
…もしかして俺、愛されてないんか?
***
「謙也、お前このままでええんか?」
「何がや侑士。」
時々、従兄弟の侑士と電話でやりとりをする。 話の内容は学校やテニスのことだったり、家族のことや…ゆかりのこと。俺が一方的に喋るほうが多いけどな。
「お前の彼女の話や。いっつもパシられとる話ばっかやないか。」
「そっ、そないなこと…やっぱあるんか?」
周りに言われて最近気にしはじめたんやけど、俺は利用されてるだけなんやろか。 俺はあいつのこと好きやから信用したいけど、ちょっと不安になる。
「彼女の方がお前のこと好きじゃあらへんっちゅーことはないん?」
「そ、それはあらへん!」
多分やけど。 俺が好きや言うたら照れて『うちもや…。』って言うとくれるし。 直接好きとは言ってくれへんけど、そん時のゆかりはむちゃくちゃ可愛い。
「惚気話はええねん、…やからお前はこのままでええんか?」
「だから、何がやねん!」
「彼女に完全に尻に敷かれとるやないか、男としてそれでええんか聞いとんねん!」
…よくあらへんのかな。別に俺は構わへんのやけど。 侑士も変に熱くなっとるし。彼女とうまくいってへんのやろか。八つ当たりかいな。
「男ならビシッと一発言ったり!」
***
次の日、俺はいつもと同じようにゆかりと昼飯を食べるため彼女のクラスまで迎えに行く。 いつもと違うのは、歩いて廊下を移動していること。
「ゆかり、待たせたな。」
『全然待っとらんよ!それより今日は購買行かへんの?』
ビシッと一発、ビシッと一発…。 あかん噛みそうや。
「え、ええ加減にせぇや、俺はパッ…パシリやないんやれ!」
…結局噛んでもた、ダッサイわ。
恥ずかしくてその場に縮こまり頭を抱える。そのうちゆかりの笑い声が聞こえるはず、と思ったんやけど一向に聞こえてこーへん。
何があったんかとおそるおそる顔を上げてみると、そこには可愛い顔を歪めて泣いとるゆかりがおった。
『謙也なんかもう知らへん!』
「ああああすまん!すまんかった!」
それから1週間ほどゆかりは口をきいてくれへんかった。
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