だいぶ行き慣れたこの病院。 ゆかりの病室の前で大きく深呼吸、そしてノック。
「はい、どうぞ。」
聞こえたきたのはいつもと違う声。 恐る恐る開けてみたら、自分のオカンと同じ年くらいの人。ゆかりのお母さんやろか。
『…ユウジくん?』
突然名前を呼ばれてビクッとする。
「よ、よう分かったな…。」
『来てくれるような気がしたんよ。』
お見舞い5回目になって、はじめてお母さんを見た。 …きっと母似なんやろなぁ。お父さんはまだ見たことあらへんけど。
「ユウジくん、ゆかりからよく話聞いてたわよ。ありがとう。」
「い、いや…」
お母さんがいるなんて想定外で、何をしゃべればいいんかまったく分からへん。緊張で言葉が出てこない。
「…あら、もしかして彼氏クン?それならママは邪魔かしら。」
「そっ、いや、娘さんとは付き合うてませんから!」
『せや付き合ってないわ!アホ言ってないでさっさと帰り!』
へぇ、ゆかりもオカンにはこういう口きくんやなぁ。 …照れとるところ、ほんま可愛いわ。
「じゃあ、ユウジくん。ゆかりをよろしくお願いね!」
とんだハプニングやった。嵐が過ぎだような静けさが病室に訪れる。 気まずくて俯いていた顔をあげると視線がぶつかる。 お互いに口をパクパクさせながら沈黙が続く。
先に口を開いたのはゆかりだった。
『ご、ごめんな?うちのオカン勘違いして騒ぎよってうるさくて…』
「気にしてへんて!そ、それより…昨日は突然すまんかった。」
『ええよ、うちも気にしてへん。』
ほっと息を吐く。 嫌われてはない…よな?
「…今度こそゆかりに嫌われたかと思ったわ。」
『一氏くん嫌うなんてそんなことあらへんよ!うちこそ嫌われてんのかって心配になったわ…』
あははと二人で笑いあって、一気に緊張がほぐれた。嫌われてないって分かっただけで泣きそうや!
「俺かてゆかりのこと嫌うとか絶対あり得へん!地球が逆回転するくらいあり得へんわ!」
『…ほんま、良かったわ。』
もう満足やし帰ってもええ…やない!
言わなあかんことがあるんやった。
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