ついに病室の前まで来た。
さっさと様子見てプリント置いて帰ろ思うたのに、受付の看護師さんが「彼女のお見舞い?」って聞きよったせいで変に緊張しとるわ。 余計なこと言いよって!
はやく帰りたい。 心を決めて病室のドアを開けた。
「…ども、先生の代わりに来た一氏なんやけど。」
『一氏って、一氏ユウジくん?』
病院の中には彼女だけで、親はいなかった。 目んとこには包帯が巻いてある。 白石で包帯は見慣れとるけど、なんとなく怖かった。 あの下はどうなってるんやろか。
「なあ、俺先生からプリント預かっとるんやけど母さんかお父さんおらんの?」
『すまんなぁ、今日は帰ってもうたんや。明日渡すから置いといてや。』
「おん、分かった。」
『あと悪いんやけど、ちょっとの間お話に付き合ってくれへん?一人でおるのつまらんし、ラジオ聞きたいやつ始まるの30分後やねん。』
なんでラジオ、すぐに忘れてそう聞こうとしてた。目が見えへんのやった。
「別にええで。」
『ほんま?ありがとうな!』
入院しとる奴って元気ないイメージあったんやけど、割りとこいつは明るかった。 こいつの周りには多分親が買ってきたんだろう触って時間が分かる時計とか、メシこぼさないようにする赤ちゃんがつけるようなやつ、多分介護用のやな。そういうのが色々あった。
時計とか気になって触らしてもろたけど、ほんま良くできとるわ。
途中で目と手術の話になった。何となく不味いなとは思ったけど好奇心が勝って色々聞いてしまった。 手術は一週間後。成功率は低くないけど高くもない。うまくいっても見えるかどうかやってみないと分からへんのやって。
『もしこのまま見えへんくても、きっと何とかなるて!』
ちゃらけて言っとったけど、声が震えていたのに気付いてしまった。
いつのまにか長く話し込みすぎて面会時間のギリギリまでいてもうた。
『ほんま、ありがとうな。最初の方は友だちも来てくれてたんやけどうるさくしすぎて、ものごっつ怖い看護師さんに怒られてもうてん。週1くらいしか来れへんようになってまったんや。だから久々に楽しかった!』
「別にええで。あと、一つ言ってもええか?」
『ええで。』
「…ほんまは手術、怖いんやろ?」
そう言ったら泣いてしまった。 不味い、とりあえず抱き締めた。スポーツやっとる割に小さな体。まだ15歳。怖くないはずがないやろ。
この先の人生がかかってるんや。
そして、こいつを守りたい、励ましてやりたいと思った。
…恋っちゅうか、愛しとる。
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