「ゆかりさん、ほんま部屋汚いわ。無駄ありすぎやで?」

春といえば、入学入社をはじめ新たな1年のはじまりである。
わたしは短大2年生。今年で最後だ。
こんなシーズンじゃないとわたしは大きな掃除をしない。
大晦日と衣替えの時くらいだ。

今日は気分転換に掃除とついでに模様替え。
そしたら蔵ノ介、高1の時から付き合ってる現在高校3年生の彼氏が手伝いに来てくれた。

世話焼きな彼はわたしよりも家事ができる。わたしが邪魔なくらいだ。


『使えそうなものは取っといちゃうタイプなんだよ…仕方ない。』

「仕方ないやあらへん!」

『蔵ノ介の部屋も奇妙な健康グッズで埋まってるじゃんか!』

「…あ、あれは無駄な物やないからええねん。」


わたしはバイトしてるしそこそこお金に余裕はあるけれど、お小遣いがそんなに多くないスポーツ学生がこんな物にお金かけていていいのか。ちょっぴり不安だ。
とか言ってわたしも買ってあげちゃったりしてるんだけどね。


「いらへんもんはまとめときや!」

『うーん…。』

正直いる物いらない物の問題よりも引き出しを開けたくない。
絶対に汚いから。
いらない物をすべて詰め込んできた四次元に繋がっている引き出しだ。ド○えもん助けて!

「優柔不断やな…。」

仕方ない、そう言って蔵ノ介がかわりに引き出しを開けた。若干顔がひきつっているのは気にしないでおこう。

「いつから掃除してないん?この引き出しは。」

『掃除したときよく分からないものは全部そこに詰め込んできた。』

「…はぁ。」

ため息つかれた。
愛想尽かされないためにこれからはもう少しこまめに片付けしよう。

「このネックレスやら指輪やらはいるんか?」

『あー、そこにあるの全部捨てていいよー。』

蔵ノ介にもらった物はきちんと別のところに保管しているから、それだけあれば十分だろう。

「は?!これ捨ててええの!」

チラッと蔵ノ介の手を見ると、学生には少し高めのネックレス。
見覚えがあるやつもあるし、ないやつもたくさんある。まぁいらないな。

『かまへーん、多分元彼か先輩にもらったやつだし。』

そう言うとみるみる蔵ノ介の顔は不機嫌そうに歪む。
ああ、めんどうな状態になった。

「とりあえず捨てるんはダメや、返すか売るかせえ。」

『全員連絡先知らないから売る。』


嫉妬しなさそう、というかこいつの場合彼女が他の男に目を向けないから嫉妬に縁がなさそうだから、こういう面があるのは意外。


「なぁゆかりさん。」

『なに?』

「ちょっと前から言おうと思ってたんやけど、聞いてくれへんかな。」

『うん。』



「大学行くんやめて、就職しよ思ってんねん。」


『はあ!?』

わたしは別にいいけれど、今まで大学行くって言ってて最後何で急に進路変えるの!
蔵ノ介は先生からの信頼も厚いし成績も運動神経もいいから欲しがる会社も少なくないとは思うけど。

『…理由は?それで本当にいいの?』


「はよ働いて大人になりたいねん。金もあらへんからああいうキレイなネックレスとかあげれへんし、進学したら絶対今より会えへんようになる。」

『働いたって同じことじゃん、お互い働いたら夜しか会えないし。』

わたしが車の免許取れば大学の迎えに行けるし、進学の方が会える時間多いと思う。

「せやけど、彼女が働いて彼氏は大学で勉強するっちゅーのがイヤや。カッコ悪いやん。」

『…今日の蔵ノ介、いつもらしくないよ。どうしたの?』

どこか焦っていて、いつもの彼らしくない。




「はよ働きたいんも、大人になりたいんも、金が欲しいんも、はよゆかりさんと結婚したいっちゅー意味や!」


『…え、そんなことだったの?』

「俺にとってはそないなことあらへんのや。ゆかりさんがモテるのも教授に気に入られとんのも知ってんねん、誰にもとられたない。」


わたしが思っていた以上に蔵ノ介は子どもで、でも大人だった。
中学に入った頃はマネージャーのわたしより背が低くて、卒業してからは知らなかったけど高校で再会したら3年前とは比べ物にならないほど、かっこよくなってた。


『だったらさ、』

「…なんやねん。」

『わたしが蔵ノ介が大学で勉強してる間しっかり働いてお金貯めとくから、大学卒業したら結婚しよう?』

「それがイヤやねん!」

『だからさ、蔵ノ介は4年間しっかり勉強して、』


それから赤ちゃんのために働いて?




蔵ノ介は返事のかわりにぎゅうっと抱きしめてれて、今日はもう掃除が進まないだろうな、と私は確信した。

…4年後が待ち遠しい。


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