「ゆかり、今日もパン頼むばいね。」
『はいはーい。』
千歳のパシリになり数日。
ただひたすらパンを買ってきて一緒に食べるという繰り返し。 一体いつまで続くのだろうか。 それと毎日毎日メロンパンをもらうのも申し訳ない。好きだから断れずもらっちゃうけど。買ってくるのもわたしだけど。
しかもこの男といるようになってから白石くんと喋る機会が減ってしまった。 昼休みはこいつといるし、その前の休み時間はお金預かりに行くし。
最初の方こそ周りにアンタ何様のつもりだという視線を浴びていたが最近は可哀想な人を見る目に変わっている。
そして今日もいつもと同じように購買へ走ってまた屋上へ向かう。
『お待たせしましたー』
「おお、いつも悪かね。」
『…あんたが買いに行かせてるんでしょうが。』
「ん?」
『何でもないです。』
今日は久しぶりに自分で弁当を作ってみた。お母さんが残業だったらしいから少しでも長く寝かせてあげられるようにね。ほんとできたパシリ…じゃないできた娘だ。
「ゆかりは甘いモンは好いとう?」
『うん、まあ好き。』
「じゃあこれやるばい!」
手渡されたのはカップケーキ。
「家庭科の授業で作ったけん、変なものは入っとらん。よかったら食いなんせ。」
『あ、ありがと。ていうか今日は授業出たんだね。えらいじゃん。』
「…ゆかりに褒められると、照れるばい。」
皮肉のつもりだったんだけどな! そんなことに気付きもせず、わたしが買ってきたパンの袋をあける。
「ゆかりに作りたかったから、めんどうな授業出たばい。」
…こんの、天然タラシ! そんなこと言われて喜ばない女子なんてこの世にいないわ!
「あ。今日の放課後、暇ね?」
『え、帰りた嘘です暇ですよ。』
「部活見に来てほしか。」
『嫌で…分かりましたぁ。』
女の子いっぱいいるんだろうなぁ。行きたくないけれど、それよりもテニスをしている千歳が見たいと思ってしまった。
あっという間に放課後でバックレるなんてマネわたしにはできず、大人しくテニス部のコートへ向かうことになった。
あぁ、寒いからはやく帰りたいのに。 未だ誰もいないコート、女の子も誰もいない。…早く来すぎた。 今週は掃除当番がないからすぐ家に帰る予定だったのに。 …本当に寒い。
「お、ゆかりやないか。」
『あぁ白石くん!早いね、一番乗りじゃん。』
「一番乗りはゆかりやん。てか、テニス部見に来るなんてどないしたん?珍しいわ。」
『千歳…くんに見に来ないかって誘われてね。来てみたの。』
「千歳、ね。せやったんか。」
寒い青空の下。まだ誰もこない。 白石くんと喋るのも久しぶりのような気がする。最近ずっとあの男に振り回されているから。
「なあ、ゆかりって千歳と付き合うてたりする?」
『…付き合ってない、よ。』
否定しづらかった。したくなかった。 付き合ってたら良かったのに、そう思ってしまった。
ただのパシリ、それだけの関係。
いつの間にか、千歳のことを好きになっていたのか。 たしかにいつも昼ごはん買いに走らされているけれど、好きって聞いたからってメロンパンくれたり(買ってきたのわたしだけど)、自分のために調理実習出て作ってくれたり…いや、食い物につられてるわけじゃないよ!その気持ちにだよ!
「…なぁ俺、実はゆかりのことが好きやねん。」
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