この男には放浪癖がある。
背が大きくて、雲のような猫のように自由な人。 その性格のせいか、授業の出席率は半分すらいってないと思う。同じクラスなのに勉強しているところを見たことがないと言ってもいい。出ても寝てるのだ。 いわゆる、問題児というやつ。 いない理由はケンカじゃない(はずだ)からまだ安心なものの、ちょっとこのままでは不味い。義務教育だから卒業はできても高校への進学はできない。 いくらテニスが上手いからってそれだけじゃ高校には入れない..よね?よく知らないけどすごい才能を持ってるからってそれだけじゃいくらなんでも、とわたしは思う。
ちなみに今は授業中。 彼の姿はない。
何故こんな問題児なんかを心配しているかというと、一応はわたしの彼氏なのだ。 突然「好いとうよ。」なんて告白されて『え、は、..はぁ?』とどもっていたら「よろしくな!」ほぼ相手の独断でお付き合いが決まってしまった。 それでもだんだん惹かれて、今では何の文句もない。(勝手に決められたことに対してね。) 惚れた弱みというやつだ。惚れたモン負けやな!なんて友だちには笑い飛ばされた。
キーンコーン..授業の終わりを知らせるチャイム。 「よし、今日はここまで。」 退屈な授業も午前はこれで終わり、今からお昼休みだ。 中庭が日が当たってきっと暖かいだろう、と友だちを誘って中庭へ向かうことにした。 そして中庭へ行ったことを後悔することになる。
「好きやねん、あんな子やめてあたしと付き合ってくれへん?」
告白現場に出くわしてしまった。 なんで人が集まる昼休みの中庭で告白するのさ!別にいいけど、周りの目とか気にならないのかなぁ。 ていうか、彼女いる人にって勇気あるよね。略奪愛かぁ。 友だちに目配せで「教室帰ろ?」って合図を送る。すると
「ちょ、あんたいいの!?」
『え、何が。』
「あんたの彼氏やで?告白されてんの。ほら千歳千歳、あんなでかいのうちの学校ではあいつしかおらんやろ。」
恐る恐る振り返ると、可愛いというかわたしよりは格段にキレイで(でもわたしは普通だからね!ブスじゃない!はず!)気の強そうな女の子の前に立つ千歳。全然気が付かなかった。 そういえば千歳は人気あるけれど、最近は呼び出されること少なくなってた。完全に油断してた。
「ごめんな、好いとう子おるたい。」
あ、断ってくれた。 ちょっとドキドキしたけれど、あとその好いとう子は本当にわたしなのかもちょっと不安だけど。
「な、何でや!絶対あたしの方が可愛いし、千里くん幸せにできる自信あるで!」
「うわぁ..。」 今の声は断じてわたしじゃない、友だちだ。 正直引いた、ちょっとしつこくないか。人の彼氏名前呼びってやめてよ! ..とは勇気がなくて言えないけど。
「千里くんはまだうちのこと知らんだけで、これからあたしのこと!」
「..自分、しつこいと思わんと?」
千歳が機嫌悪くなった。それもそうか。 うちが千歳の立場だったら、うーん。「もっとひかえめな子が好きかな」とか言っちゃう。
「俺、しつこいのとか重いのとか好かんけん。自由が好きたい。」
そう千歳が言うと、相手の女の子は泣いて去ってしまった。こっち来なくて良かった。 告白現場(しかも失恋)の後でご飯というのはあまり気分が乗らない、中庭で食べるのはあきらめてわたしたちはトボトボ教室へ向かう。
千歳の言葉はわたしに向けた言葉じゃなかったけど、わたしにも突き刺さった。
自分の想いはしつこく感じられてるかもしれない。 千歳を縛りつけてるかもしれない。 縛り付けることは多分ないだろうけど(学校で一緒にいる時は多くないんだ)、いるってだけで気にしちゃったりとか。まったくしゃべらないわけじゃないけど、ぽちぽちメールしたり時々電話したり、部活がないときに一緒に帰るくらい。 わたしも放任主義なのかもしれない。縛ってはないはず、はずだけど。
不安になってきた。
「ゆかり大丈夫?」
『ん、気にしないで。大丈夫。』 強がってるように見えるよなぁ。実際強がってるけど。
マナーモードのケータイがポケットでブブブと震える。 あ、千歳からのメールだ。
from:千歳 今日一緒に帰れっと?
「か、え、れ、る、よっと、送信。」 ..送ってから後悔した。 何だか気まずいなぁ、勝手にわたしが思ってるだけなんだけど。 別にいっか、放課後になったら多分忘れる。
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