「ゆかり、おはようさん。」
『おはよう、白石くん!』
みんなが憧れるわたしの地位。
妬む人はもちろんいるけれど、そういう人に限って何も努力していない。わたしは自分を磨いて今、こうして白石くんのタイプに一番近い女子になれたんだから、そんな奴怖くもなんともない。
告白はまだしてないし付き合ってもないけど、見ているだけの2年間があったからこうして話せるだけで、わたしは今すごく幸せだ。
「お、ゆかりシャンプー変えたん?」
『うん。いつも使ってるところの新しいやつを買ってみたの。』
シャンプーの香りがする子がタイプって聞いたから髪を縮毛かけてサラサラにして、毎日丹念に髪のケアをしている。 走ったとき風が吹いたとき、流れた髪の毛から香るシャンプーの匂いは我ながら完璧だと思う。 朝にシャワーを浴びるのもめんどうだけど、一日も欠かしたことはない。
白石くんの登校時間に合わせて学校に行くようにしてるから、毎朝早起きで健康的だし部活の朝練も続けて、ベンチからレギュラーになった。
一石三鳥だね、努力は報われる!
放課後、相も変わらずファンの子から呼び出しを受けた。 いつもなら部活があるからシカトするけれど今日は部活がない。それでも行く気なんかさらさらないんだけどね。 と、思ってたらわざわざ教室にお迎えが来た。
「香川ゆかりさん、ちょっといい?」
『…行かなきゃダメなの?』
「もちろん。」
あぁ、めんどうなことになった。
大人しく屋上についていく。 はやく終わらせたい、ちなみにわたしの部活は柔道部だからね。小さい頃からずっと続けてるし、朝練のおかげでそこらの男子よりも強い自信はある。
ドアの向こうには、5人いた。
一歩踏み出すとすぐに囲まれて逃げられなくなる。
「ねぇ、調子のるのもいい加減にしなさいよ!」
「白石くん独り占めしないでよ!」
「この猫かぶり!」
『うるさいわよ、何も努力しないブスが他人にどうこう言う資格なんてないっつの!こっちは必死こいて努力してここまで積み上げてきたんだか、ら簡単に崩すわけないでしょ。好きな人の前で好かれるために良い子ぶって何が悪いの!』
「な、なによ!性格ブスのくせに、白石くんにバラすわよ?!」
『あんたらの言うことと、わたしの言うこと白石くんがどっち信じるかなんて目に見えてるでしょ。勝手に言ってみれば?』
「…っ、覚えてなさいよ!」
案外、弱かった。捨て台詞を残して去っていった彼女たちを見ればどちらの勝ちかなんてすぐ分かる。
手とか出されるのかと思ったけどそれもなかった。わたしに勝ちたいなら1クラス分の女子呼ばなきゃ無理だけど。
『…張り合いのない奴ら。』
「ずいぶんと強気な女の子たい。」
はじけるように振り向いた。 けれど、そこには誰もいない。あたりを見渡してもいなかった。
じゃあ今の声はどこからだ。
「お前さんは香川ゆかりであっとっと?」
もしかして。 給水塔をのぼってみたら、思った通り声の主がいた。
『千歳千里…!』
「へぇ、面白いこと知ったっちゃ。」
猫かぶり、動いた口から音は発せられなかったけど確実にそう呟いた。
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