千石は、わたしのチョコなんていらないよね。


今だってキャッキャしてる女の子に囲まれて楽しそうに笑っててさ。どうせその子たちにたっくさんもらうんでしょ?
わたしよりもみんな女の子してるし、きっと手作りで美味しいチョコレートを用意してくるだろうね。
困ったような顔しといて内心実は嬉しいんでしょ!あぁもう!


彼女のわたしの立場が、さ!
…ないよね。




そんなこんなで作ってくる気はなかったのに、今日2月14日、チョコレートを作って持ってきたわたしはきっとバカ。

なんだか朝から目を会わせ辛くてちょっと避けてしまっている。
話しかけられたらとりあえず返すけれど、できれば近寄るなオーラを出してる。気付いてないから話しかけてくるんだろうけど。


「…ゆかりちゃん。」

『なに。』

「もしかして今日機嫌悪い?」

『別に、そうでも。』

「…そっか。」


これっきり話しかけてこなかった。
すっごい自己嫌悪に陥る。冷たくしたい訳じゃない、ただあんまり他の女の子と仲良くしてほしくないだけ。
千石にはこんな独占欲の強い女合わないよね。でも自分から別れを切り出すことはできない。

家帰ったら、電話で謝ろう。
冷たくしてごめんって、あと直接言えなくてごめんって。


あっという間に一日が終わって、帰り支度にかかる。
カバンの中には渡せなかった下手くそなラッピングのチョコレート。

ため息を一つ、そしてチャックを閉めてカバンを肩にかける。


無言で教室を出る。
いつもは千石の教室の前を通って帰るんだけど、今日は遠回りして反対方向から昇降口へ向かう。
通ったら自然に目がオレンジを探してしまうだろう。それでたくさんチョコを抱えてる千石を見てまた傷付くんだ。

でもこれで会わずに済む。
しかしほっとしたのも束の間。


「…ゆかりちゃん。」

あぁ、なんてタイミングの悪い男。
昇降口に着き靴を履き替えるところで後ろから声をかけられた。


「もう、帰るの?」

『そ、うだけど…。』

怖くて振り向けない。
きっと千石はチョコたくさんもらったんだろうな。抱え込むほどもらってたらどうしよう。あぁ、泣きそう。

「…もしかしてさ、俺に愛想尽かしちゃった?」

『ち、ちが!』

弾けるように振り向いたら、そこにはわたしと同じように泣きそうな千石がいて。何であんたが泣きそうなの。泣きたいのはわたしだよ。
二人してぐすぐすして、何してるんだか。

ていうか、あれ。チョコ持ってない。


「今日っていうかここずっと冷たかったし、俺こんなんだから嫌われたのかなって。はは、こんな女々しい男誰だっていやだよね。ごめん…」

『あのさ、チョコって』

「…ゆかりちゃん、俺にくれるの?」

『いや、他の女の子からのチョコはどうしたの…。』

「今年はゆかりちゃんがいるから断った。」

もらえなかったから意味なかったけどねって自分を嘲笑う千石にすごく申し訳ない気持ちと、愛しい気持ちがこみあげる。


『ばか、用意してあるし。』

来年もわたしからだけもらってね。
こんな彼女でごめんなさい。


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