『あ、財前ちょうどいいところに!』
「…なんスかゆかり先輩。」
『ちょっと頼み事があんねん!』
俺の名前は財前光。
この学校で俺の名前を知らん奴は少ないと思う。テニス部の2年レギュラー、そして次期テニス部の部長候補。ついで勝手に天才呼ばわり(別に悪い気はせぇへん)されとる、ちょっとした有名人や。
そんなやから先輩には、
「財前は彼女の一人や二人おるんやろうな、しかもものごっつかわええ子!羨ましいわー!!」
俺をどう勘違いしとるんか知らへんけど、今まで彼女を作ったことはない。 そら小学生ん頃は中学生になったら彼女くらいすぐできる、俺ならまぁ選り取り好みやろなんて調子こいたこと思ってた。
ただそれはテニス部に入って打ち砕かれることになる。
好きな人ができたんや。
最初は誰でも良くて、ただ可愛いくて大人しい女の子がええとかは考えとったけど。
俺が好きになった人は1つ上のテニス部マネージャー、香川ゆかり先輩だ。
まあまあ可愛いけど大人しくはない。年上の人に使うんはアレやけど、やんちゃで活発。んで笑った顔に一目惚れやった。
最初はどうせ長く続かないと思っとったけど、最近片思い歴1年を突破してもた。
…ヘタレ先輩のこと言えへんわ。
好きな人のことを大切にしたいって思うのが男の性。
…何で耳に穴開けなあかんねん!
『だって財前慣れてそう。』
「そりゃ5回は開けてますし…」 『じゃあええやん!』
でもできるなら開けたくない。
自分が開けといて言うことやないけどゆかり先輩には体に穴開けたり傷付けたりとかして欲しくあらへん。
『ねー財前、まだ?』
「…ほんまに開けはるんすか。」
『おん、開けるで!…別に財前が開けてくれへんのやったらケンヤんとこ行くから別にええねんけど。』
…は、 何でここで謙也さんが出てくんねん。
ふつふつと沸いてくるこの感情はこの人に出会うまで知らなかった。部長や謙也さんと何や知らんがやたらと仲が良い。その度に1つの年の差を大きく感じてまう。 金太郎には感じへんのにな。
「謙也さんみたいなヘタレのところ行くんやったら俺がやります。」
ピアッサーを取り上げて開ける場所の確認をする。
「開けますよ。」
『え、あ…うん。』
パチン。 何回も味わったこの感触。
他人にすんのは初めてやったけど。
「謙也さんとか、部長に頼むくらいなら俺がやったりますから。…他の奴んとこ、ひょこひょこ行かんといて下さい。」
『んー、分かった!ありがとうな、財前。また頼むわー!』
じゃ、さっそく白石とケンヤのとこ行ってくるわ! とゆかり先輩は走り去ってしまった。
ゆかり先輩がその言葉の意味を分かってくれる日がくるんやろか。
………きぃへんな。
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