今日はバレンタインデー。
女の子も男の子もそわそわして、教室には甘い香りが漂う日。
今年も例年通りテニス部の人気は異常で、げた箱に机にとチョコが溢れかえるんだろう。…どうやって持って帰るのかな。

自分の教室に入ると、多分この学校で一番おモテになるお方白石蔵ノ介くんがいた。
まだ早いせいかクラスには白石君しかいない。

「…ゆかりさん、おはよう。」

『お、おはよ!』


3年生になってはじめて同じクラスになった白石君。
存在はもちろん知っていたけどわたしにとって彼は雲の上の存在だったから、今こうして挨拶していることが奇跡なんだと思う。
誰にでも優しいし、勉強もスポーツもできて完璧な白石君に恋に落ちるのはそう時間がかからなかった。

もちろん、チョコも白石君に渡せたらいいなって思う。


けれど去年山のように積まれたチョコを見ていると気が引ける。
中にはすごい高くて美味しいって有名なものも混じっていたらしいし、自分が作った平凡なチョコ増やしても処分に困るだけだ。
処分っていうか、優しい白石くんはきっと全部食べてくれるだろうけど。

渡すなら今がチャンスだけど、直接なんて恐れ多くて渡せない。


もし勇気がでたら今日の休み時間とかに他の女の子に紛れて渡そう。
そう考えていた。

「なぁゆかりさん。」

『わ、わたしですか!?』

突然口を開いた白石くんに、クラスに今は二人、しかもゆかりはこのクラスに一人しかいないのに思わず確認してしまった。

「そや、ゆかりさんや。」

おもろいなぁって笑顔を見せてくれる。いつもはたくさんの人にまかれる笑みは、今だけは自分に向けられていてそれがとても嬉しかった。後で友だちに自慢しよう。
ほんとにかっこいい。かっこいいだけじゃなくて、こんな地味なわたしにも優しくしてくれるって。話しかけてくれるって。…クラスに今誰もいないからか。

「なぁゆかりさんって、今日誰かにチョコあげるん?」

『え゙っ!?』

予想していなかった質問に変な声が出てしまった。恥ずかしい。

『あ、あげるよ。』

「…へぇ、このクラスの人?」

『うん。』

「じゃあ今から当てたろ!」


待って!うんとか何答えてるの!
当てたろとか言ってますけど、あなたなんです!当てられたら非常に困るんですが!

て、適当に答えとけばいいかな…。
いざとなれば幼馴染の陸上部のやつとか言っておけば、いいよね。
…でもそしたら白石君にチョコ渡せなくなる!

「んー、まずは運動部?」

『う、うん。』

「背ぇ高い?」

『高い方だと思うよ。』

「謙也やったりする?」

『違うなー。』

質問の一つ一つにビクビクしながら答える。慎重にいかないと、バレたくない。振られるのが怖い。


「じゃあテニス部?」

『うん。』

………あれ?

「じゃあ俺やな!ちゅーか、ゆかりさんが俺のこと好きなの実は知っててん。」

は、ハメられた!
恥ずかしくて悔しくて、涙が出てくる。
知ってたって、知ってたって!何故か仲の良い後輩・財前にしか言ってないのに…って思ったけどこいつテニス部だった。何で本人にバラしてくれてんの!


「な、泣かんといて!…騙したのは反省しとる。けど、」

…めっちゃ嬉しいねん。



朝、誰もいない教室で私は白石君と恋人になりました。


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