突然訪れた足腰への衝撃。
文化部のわたしには耐え切れるはずもなく廊下の壁に激突した。

「なぁ姉ちゃん!チョコ持ってへん?」

『き、金ちゃん!危ないから急に飛びつくのはやめてって言ったでしょ!』

白石呼んで毒手出してもらおか!?と言うと、そっそれだけは堪忍!とすぐに降りて謝ってくれた。
良い子なんだけどなぁ、いつも突然すぎるから本当に困る。


『今日バレンタインやろ?ワイ、姉ちゃんからチョコ欲しいねん!』

困るんだけど、すごく純粋で可愛いからからかい甲斐もある。
毒手信じてるのなんて、四天宝寺で金ちゃんだけだよ。

ニコニコとチョコをねだる金ちゃんはもちろん可愛くて、甘やかしたいのと同時にいじめたくもなる。

『あーチョコなぁ、さっきケンヤが全部食べちゃったんだよね…』

もちろん嘘だけど。
ケンヤにチョコあげたのは本当だけど、ちゃんと金ちゃんの分も用意してある。

いつもだったら「なんやて!ケンヤのアホ!」って飛び掛りにいくところ。
けれど予想とは違って「そうなんか、ならええわ。」と非常に聞き分けがよかった。
…嫌な予感しかしない。

「そんなら違うもん姉ちゃんからもらうわ!」

やっぱり!…でも金ちゃんのことだからお弁当とかお菓子とかだよなぁ。


と、気を抜いてる隙に目の前のゴンタクレが動く。
唇にやわらかい感触が一瞬だけ、触れて離れた。

「ごちそーさん!あ、でも後でチョコももらいに来るさかい、用意しといてな!」


ヒョウ柄の嵐の後には、真っ赤な自分だけが残っていた。




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