ひどく寒かった今年の1月。
東京にも雪が降って、高く積もるまではいかなくても街のいたるところに一週間近く雪が残った。
2月に入り日も延びて、午後の授業には暖かい日が差す。 それでも帰る頃はやっぱり寒い。
部活が終わって辺りは真っ暗。 楽器の片付けに手間取って少し遅くなってしまった。
(なるべくはやく帰ろ…。)
下駄箱まで駆け足で向かう。 夜の校舎はいくらきれいな氷帝でも気味が悪い。信じてる訳じゃないけど、お化けが出たら…
「おい。」
『ゔぉっ!は、はい?!』
「俺様だ、ビビりすぎだろ。」
あ、跡部…? お化けとかじゃなくてよかった、本当によかった。
ていうかあんたの話しかけるタイミングが悪い!
そう声を大にして言いたかったがびっくりしすぎて口が言葉を発しない。そのことにもびっくりだ。
「…少し落ち着け。」
『あ、跡部か…。』
とっくに帰ってると思ってた。 寒いし暗いし、いつもみたいに車呼んでピューって。わたしだってできるならそうしたいよ、でも呼んだら自分で帰ってこいって言われるのが目に見えてるからしない。
「まだ帰れねぇ用事があってな。」
『へーふーんそうなんだー跡部くんは大変だなー』
「待ってても用事のある張本人が出てきやがらねぇからなぁ。わざわざ探しにきてやったんだぜ、あーん?」
『それはそれはお疲れ様です。』
「なめてんのか、」
そう言って投げ渡されたのは、今日朝練のときにこっそり鞄にいれておいたチョコ。
…何で返されんの。 もしかして、振られた?
「もう一回、俺に渡せ。」
『はぁ?』
意味わからない。 何様俺様跡部様の思考は庶民のわたしには到底理解できそうにない。
「なんで彼女にこそこそ渡されなきゃなんねーんだ、アーン?」
『もしかして跡部、拗ねてた?』
「…うるせぇ。」
耳を真っ赤にしてマフラーに顔をつっこむ跡部。 あぁ、わたしの彼氏は可愛いです。
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