セーフか、ちくしょう。


…やばい、こっち見てる。

いやいやいや、あたしは悪くない悪くないからね!ドッジボール中に目を瞑ってぐだぐだ語る人がいけないんだからね!

とりあえず跡部の顔面に当たって跳ね返ってきたボールをまた拾う。ついでに跡部が持ってたボールも転がってきたので味方の男子にパス。
今度は狙いを定めて…


「あーん?お前も俺様を狙うなんていい度胸じゃね゙ぇっ!!」

『…ハッハッハ!キングだかなんだか知らないけど、アウトだからさっさとコートから出な!』

てんてーん、と跡部に当たったボールがかえってくる。多分このボール跡部のこと嫌い。そんであたしのこと好きだよ。

数人の跡部ファンと思われる子たちに怒鳴られたけど気にしない。まぁすでに何人かあたしのファンになってるはずけど。ドヤ。

明日にはあたしのファンクラブができているだろう。冗談だよ。



…しかし当たった跡部景吾は、なかなかその場を動かない。往生際の悪い男め。
あたしが奴を当ててから時間が止まったかのようにみんな動かない。あたりはシーンとしてる。ちなみに大きな大きな体育館の2階で下はどこも使ってない。


「おい。」

沈黙を破ったのは跡部景吾だった。
しかし相手にする気はない。

『アウトだからさっさと出な。』

「…チッ。」

嫌々とコートを出ていった俺様何様跡部様を見て優越感たっぷり。今日はよく眠れる気がする。

そして次々と当てていくうちにチームに連携が生まれてきて、あっというまに試合が終わってしまった。相手コートに人はいない。パーフェクト!

「やったな、名前!」

『まぁわたしのおかげな、あーん?』

「似てねぇ…。」

『なんだと!』

相手チームからもすごかった、女の子だとは思えない!と称賛の声を頂いた。ゴリラっつったやつ、顔覚えたからな。


「…おい、香川ゆかり。」

『何よ跡部景吾。』

キュッキュッキュ。滑りにくい体育館の中、シューズを鳴らしながら近付いてくる。
あたしの目の前まで止まった。






「お前、俺と付き合え。」

『は、意味わからない死ね。』

「気の強い女は嫌いじゃねぇ。」

『こっちが願い下げだ、アホ!』

「ぐぅあッ!」

たまたまあたしのところに転がっていたボールを思いっきり蹴る。角度がつき跡部の脇腹へ。その場に膝をつく、キングが無様なこった、ハッハッハ!

「な、なかなかやるじゃねぇか…俺様の女に相応し『死ね』

もう一発食らわせてやろうと足を振り上げた時、跡部が華麗な足払いを決めあたしのバランスが崩れる。
それを当然のごとく抱きしめ、あたしの耳の横で、

「世界一幸せにしてやる。」

これには不覚にもときめいた。
顔に熱が集まる。一度赤くなった頬はなかなか戻らない。恥ずかしい。

「だから、」

『…なに。』





「もう一発蹴ってくれ。」

『台無しじゃドあほ!!』


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