「ゆかりちゃん、あんまり無理しちゃあかんからね?」
スランプは誰にだってあるんやから、って慰めてくれる同じ1年生のマネージャー。


今までスランプの経験がなかったからどうすればいいのか分からない。他の趣味もないから走ることを忘れられない。
大好きだった部活が辛くなって、大会前なのに良い記録が出なくて、完全にマイナス思考。


今日はどうしても走る気分じゃなくて初めて部活をサボった。

「待ちいやケンヤ!」

「誰が待てって言われて待つかっちゅー話や!いくら金ちゃんかて、浪速のスピードスターには追い付けへんわ!」

「ふんぎぃい!!」

前から来るあの人たち、足速い。
いいなぁ男の人は。女よりも速く走れるし筋肉つくし羨ましい。
あと胸のこの余分な脂肪をどうにかしたいわ。走るとき邪魔だし。って友だちに言ったら殴られたからもう口には出さない。


「ケンヤ、前!前!」

「なんやね、んっ!?」

『っぎゃ!』

後ろ向いて走ってた金髪(余裕で羨ましいわ)が、うちんとこ突っ込んできよった。思っくそ正面衝突。当たったところがめっちゃ痛い。細いくせに何で体強いの、神様のヒイキか!

『いった…。』

「すまん!だ、大丈夫か…?痛いとことか擦りむいたとこあらへん!?」

『いやあの、ほんと大丈夫なんで。こっちこそ前注意してなくてすみませんでした!だから!あの、命だけはお助け下さい!』

「命って何やねん!そこまでこわないわ!」

いやいや、キッシキシの金髪とヒョウ柄のタンクトップ着た奴なんか不良以外なんでもない。怖いわど阿呆。


『お不良様じゃないんですか。』
「お不良様って何やねん!俺は浪速のスピードスター忍足謙也や!」

「わいは遠山金太郎言います、よろしゅう!」

なんだ、遠山くんすっごい可愛いじゃないか。
…忍足謙也、どこかで聞いたことがある名前なんだけど思い出せない。

『わたし、あなたと会ったことないですよね?』

「あらへんな、俺の記憶やと。ていうかお前名前は?」

『香川です。』

「下は?」

『ゆかり。』

「あー知らへんなぁ。」

うーん忍足謙也、忍足謙也…。


あ、分かった。

『テニス部のイケメンの人か!』





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