いや、分かってる。分かってるとも。
連絡がこないってことは部活がのびたんだよね。 焦ってメールも電話もしないまま走ってるか、電池切れちゃったんだよね。
だからあそこでナンパされてるオレンジ頭の白い学ランの山吹生は決して彼氏でも知り合いでもない。
心の広いわたし(ここも笑うところ)は近くのベンチに座ってその光景を見ながら待つことにした。
遠目で見て困ってるのは分かる。 最近の若い女子は怖いねぇ、肉食系女子ってやつ。 逆ナンって自殺行為だよ。だってわたしスタイルも顔もよくないし、多分一緒にいて楽しくない。
…千石は何で自分と付き合ってるんだ。
昔の千石はナンパされたら嬉しそうに連絡先交換して、ニコニコ「ラッキー!」とか言いながら歩いてきた。 今目の前にいるやつは、心底困り果てた顔して冷や汗かいてる。ちょっとかわいそうになってきた。 …まさか1時間あの状態じゃないよね?
助けにいくべきなんだろうか。
立ち上がったと同時に、千石が女子の中から抜け出してきた。 というか逃げ出した。
「ごめん、ほんっとごめん!部活が予想以上に長くなっちゃって、それと…」
『あ、知ってる。見てたから。』
「見てたなら助けてよ!ていうかゆかりちゃん…」
歩きながらチラチラと千石はこっちを見てくる。
「お、怒ってない、の…?」
『何でさ。』
「普通は、こういうの嫌なんじゃないかなって。」
俺だってゆかりちゃんがナンパされてたら嫌なんだけどなぁって呟く姿は女々しい。
『怒ってほしかった?』
「…まぁ、そりゃ。」
『んー、困ってる千石が可愛かったから別に怒ってない。』
かあっと頬を染めるところも可愛いと思う。言い慣れてるけど言われ慣れてはいないところだって可愛い。
『ついでに聞くけど、その袋は何?』
「いっ…いや、何でもないよ!コンビニ寄っただけ…。と、とにかくほんと、待たせてごめん!」
じゃ、行こっかって手を差し出してくれる千石は、かっこよかった。
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