今日の放課後は暇。
友だちの南方と遊ぶ予定だったんだけれど、急な用事で遊べなくなっちゃった。
そしてテニス部はオフ。
千石と付き合いはじめてだいぶ経つ気がするけれど、一度もデートらしいデートはしたことがない。 朝にたまたま会ったら学校に一緒に行って、部活の終わりの時間が重なれば一緒に帰る。 あんまり寄り道はしなくて、どっちかといえばわたしは片方の家でゆっくりしてる方が好きだったりする。
でも、千石は?
あいつの性格を考えると、絶対寄り道とかしたがるよね。デートとか暇あればしてそうだもん、あのチャラ男。
たまには、誘ってみようかな。
いや、でも他に約束があるかもしれない。ていうか絶対ある。だって千石だし。 聞いてみるだけ聞いてみようか、けど予定あって引き返すことになったら恥ずかしい。
あ、電話で聞けばいいのか。
メールは慣れたけれどめったに掛けない電話。 呼び出しのコールが待ち遠しい。
「もしもし、ゆかりちゃんどうしたの?」
『今日、もし暇なら出かけたいなって。でも先に約束、あるよね?』
「え、もしかしてそれってデートのお誘い!?」
『いやっちが、そんなんじゃ痛っ!..そうです。』
蹴りやがった、南方蹴りやがった! はやく帰れよ用事あんだろちくしょうめが!
「わあ、嬉しいな!うん、じゃあ今から迎えに行くね。」
通話が切れてすぐ、教室の窓から千石が顔を出す。速いよ!教室はそう遠く離れてないんだけどね。階段を挟んで隣。 せっせと自分の荷物をまとめて教室を出る。 南方はニヤニヤこっち見てくるし、あいつ用事あるっての嘘だろ。 睨み付ければ「はやく行けよ」って目で語る。あいつ女じゃない、怖いし。蹴るし。千石より男らしい。
「行こっか。」
『..うん。』
並んで廊下を歩いて階段を下りて昇降口へ向かう。 いつもは部活の後、外で待ち合わせになるから教室から一緒に出るのは多分はじめて。付き合ってから大分日は経つのにまだちょっと照れくさい。
『どっか行きたいところ、ある?』
テニス部ほど忙しくないわたしは欲しいものは大体買ってあるし、気になるところはあるけど千石の行きたい場所を優先したい。 ..あんまり人が多いところには行きたくないけれど。
どうせわたしいてもナンパするんだろうしね、この男は!
「..ゆかりちゃん、今失礼なこと思ったでしょ。」
『え!?い、いや何も〜あっあはは..』
どうしてこう時々鋭くなるんだ。 自覚があるからか、それとも前にもこういった経験があるのか。 絶対それきっかけでケンカしたことあるよね、こいつ。下手したら別れてるかもしれない。
..今はあんまりそのことについて考えないでおこう。
「うーん、今日どれくらい時間ある?」
『あんまり遅くならなければ平気だよ、うち門限ないし。』
「え、門限ないの!?..俺だったらゆかりちゃんみたいな可愛い子、遅くまで出かけさせたくないなぁ。」
まぁ、ラッキーなんだけどねって笑う千石はかっこいい。 いつのまにかこんなに惚れてた。
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