千石くんと付き合い始めて数週間経った。 自分でもこんなに続くと思ってなかったから、内心いつ振られるんだろうかドキドキしてる。 最近はからかわれることもなくなった。飽きたんだろうな。
最近なくなったことはもう一つ。 イタズラや好奇心で告白されることがなくなった。 だから、この状況にどう対応すればいいのか分からない。
「ゆかりさん、千石先輩と別れて俺と付き合ってくれませんか。」
『えーと、いや。あの..』
これはもしかしてマジな方だったりする?罰ゲームとかじゃなくて? この状況は、朝下駄箱をみるとラブレターなんて古風なものが入っていて「昼休み中庭に来てください」と書かれていた。女の子からの呼び出しかと思ってたから、千石にお昼教室で先に食べてて。とか言ってきちゃった。 前のわたしだったらまたここで悩んで、「..ジャンケンで決めていいですか。」とか言っちゃうんだろうけど、今のわたしには断る理由がある。 理由があるってほんと素晴らしい、迷わなくてすむ。
「ごめん、彼氏いるから。」
「じゃんけんで決めた彼氏なんか、ゆかりさんを幸せにできません。」
..決め付けんな。 君は何を知ってるのよ、千石のこと、わたしのこと! あぁ、なんだか無性にイライラしてきた。帰ろ。後ろで何か言ってるけどもう何も聞こえない。聞きたくない。
..いつからこんなに千石のことを好きになってたんだろう。 相手のたった一言でここまで熱くなるなんてはじめてだ。
「ゆかりちゃん、遅いなぁ。」
「愛想尽かされたんじゃないの?」
「そんなことはない、はずなんだけどなぁ..。」
付き合い方がアレだったし、多分ゆかりちゃんも俺が遊びだって思ってる。 最初はたしかに遊びっていうか噂の子と付き合えたら良いな、くらいだったけど今では彼女なしなんて考えられない。 いつの間にか深く深く、ハマってしまっていた。
ちなみに今はゆかりちゃんがいない代わりに、彼女の友だちの南方さんと食べている。 俺と毎日食べてるわけじゃないから、多分食べてない日はこの人と食べてる。時々3人で食べる日もあったけどそれは片手で数えられるほどしかない。
「俺、ほんとに捨てられたのかな..。」
「女々しい男は嫌われるわよ。」
「あはは、ほんと毒舌だねぇ。ゆかりちゃんもたまにひどいけど。」
「あんた彼女にこんな口利かれて傷つかないの?」
「むしろ素を出してくれるんだなぁって、嬉しいよ。」
ゆかりちゃんは、最初のころの他人行儀さはなくて素を出してくれてるなぁって思う。照れて真っ赤になってる時は、俺がそうさせてるんだって嬉しくなる。 惚気ていたら南方さんに「はぁ。」とため息をつかれた。うーん、南方さんも可愛いから笑ってるほうがいいよって言いたいけど言っちゃダメ。 ゆかりちゃんに一度誤解されたときは本当に焦った。でもその時、自分が本気なんだなって気付けたんだよね。
「ゆかりちゃんが一番だから傷つけるようなことはもうしたくない。」
って言ったときのゆかりちゃんは今でも忘れられない。
周りには変わったってすごく言われるし、残念がってる女の子もいるみたいだけど。 今の俺にはゆかりちゃん以外は考えられない。
そう熱く語っていたときの南方さんの顔も、忘れられそうにない。
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