『いっ..たくない、あれ。』

自分の記憶が正しければ、つい先ほど私は階段から落ちた。
来るであろう衝撃に反射的に目を瞑り、地面に背中を向けたんだけど。正面から落ちたら痛いからね、顔面強打はシャレになんない。
いつまでも予想していた強い衝撃がないまま。..そういえば背中があったかい。

..この展開は読めた。飽きるほどマンガやら小説を読んできたからね。
絶対千石くん下敷きにしてる、してるよ。
マンガだったらこの下敷きにしてしまった人と恋に落ちるか、因縁をつけられピンチなところをヒーローが助けてくれるんだけど。関係上、両方有り得ないな。

ていうか誰かにのしかかった衝撃もないんだけど、あれ?


「ゆかりちゃん、大丈夫?」

目を開けたら、私を抱きかかえてくれる彼がいた。
え、もしかして受け止めてくれた感じ?うわぁ重いから申し訳ない。ていうかいい加減目を開けようか、自分。

『ごめん、千石くん。ありが、と..。』

目を開けたら千石くんが覗き込んでいた。近い、近いよ!
顔を真っ赤にして『か、顔、近い。』と言ったのに、離してくれない。すっごく恥ずかしいんだけどな。それにドキドキが止まらない。

どうしてくれるんだ千石くんめ!



いつのまにか教室に戻ってきていて友達に「何顔真っ赤にしてんの。気持ちわるっ」と
言われてようやく気が付いた。気持ちわるいとは失礼な。顔がニヤけてたって、はやく言ってよ恥ずかしいな。
屋上であったことを話したら「あっそ。」冷たい。

午後の授業、ぜんぜん耳に入ってこなくて考えるのは千石くんのことばかり。
ほんの2、3時間前までは別れることを考えていたのに今はこのままでもいいかななんて思っている、ズルい女だ。

せめて、せめて振られるまではこの関係を続けたい。





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